睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)の治療には、主に「CPAP(シーパップ)」と「ASV」という2種類の在宅治療機器が使われます。CPAPは持続陽圧呼吸療法(Continuous Positive Airway Pressure)の略称で、一般的に最も広く用いられる治療法です。一方、ASVは適応補助換気(Adaptive Servo-Ventilation)の略称で、より新しい高度な装置です。

それぞれ名前は聞いたことがあっても、「具体的に何が違うのか?」「自分にはどちらが適しているのか?」と疑問に思われる方も多いでしょう。本記事では、専門医がCPAPとASVの違いや適応疾患、治療の選択基準、さらには治療法の切り替えタイミングや注意点について、最新のエビデンスに基づき丁寧に解説します。

 

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【結論】CPAPとASVの最大の違いは「呼吸サポートの方法」

まず結論から申し上げます。CPAPとASVはいずれも睡眠中の呼吸を補助する装置ですが、最大の違いは「呼吸の支援方法」にあります。

CPAPが一定の空気圧を送り続けて気道の閉塞を防ぐシンプルなサポーターであるのに対し、ASVは呼吸の状態をリアルタイムで感知して圧力を調節し、必要に応じて呼吸そのものを助ける高機能なパートナーです。以下に比較表を示します。

まず結論!一目でわかる比較表

呼吸サポートの方式 CPAP(持続陽圧) ASV(適応補助換気)
送気の仕組み 常に一定の圧力で空気を送り続ける 呼吸ごとにセンサーが呼吸状態を監視し圧力を自動調整
主に防ぐ・補助すること 上気道の閉塞を防ぎ無呼吸を起こさせない 呼吸中枢の弱まりによる無呼吸や低呼吸を補う
主な適応疾患 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)など 中枢性睡眠時無呼吸(心不全のチェーンストークス呼吸等)、CPAPで改善しない複雑な無呼吸例
心不全への使用 心不全合併OSA/CSR患者にも使用可能(症状改善報告あり) 左心機能低下の心不全例(LVEF≦45%)には原則禁忌

CPAPは「気道を広げ続ける」シンプルなサポーター

CPAPは寝ている間に一定の空気圧をマスク経由で喉に送り込み、喉や気道が狭く潰れてしまうのを防ぐ装置です。
エアクッションで気道を“支え続ける”ようなイメージで、常に一定の圧力をかけ続けることで睡眠中の無呼吸発生を抑制します。

閉塞型(閉塞性)睡眠時無呼吸症候群(OSA)では眠っている間に喉の奥が物理的に塞がることが原因で呼吸停止が起こりますが、CPAPはこの上気道の閉塞という問題に対処するシンプルかつ強力な方法です。

OSAに対する第一選択の治療法はまさにCPAPであり、中等症以上のOSA患者さんには真っ先に検討・推奨される標準治療です。

CPAP療法によって無呼吸が改善すると、日中の眠気やいびきが軽減するだけでなく、心疾患や脳卒中などの深刻な合併症リスクも低減することが知られています。
実際、研究によりCPAP使用者は未治療の場合に比べて心臓病や脳卒中、糖尿病のリスクが低く抑えられることが確認されています。

このようにCPAPは「喉を広げ続けることで呼吸を確保する」シンプルなサポーターとして、OSA治療の要となっています。

ASVは「呼吸そのものを助ける」高機能なパートナー

ASVは一言でいうと「患者さんの呼吸に合わせて自動で補助してくれる人工呼吸器」です。

内蔵されたセンサーが一息ごとの呼吸パターンを継続的に監視し、呼吸が止まりそうなときや浅くなったときには自動で圧力サポートを強め、正常に呼吸しているときには圧力を下げるというように、秒単位で送気を調節します。

例えば睡眠中に呼吸の間隔が異常に長く開いたり、呼吸数が極端に減速した場合、ASVは即座に「今、息を送らなければ」と判断して必要な空気を送り込みます。
一方で呼吸が安定している間は送気を弱めたり一時停止するため、過度な換気にならないよう調整されています。

このようにASVは呼吸リズムの乱れ自体を検知して補正できるため、単に気道を広げるだけのCPAPとは異なり「呼吸そのものをバックアップするパートナー」と言えます。
特に、チェーンストークス呼吸(周期的な過呼吸と無呼吸の繰り返し)など中枢性無呼吸では、患者さん自身の呼吸ドライブ(脳からの呼吸指令)が弱くなっているため、ASVのような高度な補助が有効です。

ASVは本来、慢性心不全患者さんの在宅人工呼吸器として開発・利用されてきた経緯があり、その高機能性ゆえにCPAPでは対応しきれない複雑なケースで力を発揮します。
なお、ASVも基本的な装着方法はCPAPと同じくマスクをつけるだけで自動作動し、難しい操作は不要ですが、CPAPに比べ設定調整項目が多く専門的判断を要する機器でもあります。

どのような症状にどちらが使われる?適応疾患の違い

前述のとおり、CPAPとASVはサポートの仕組みが異なるため、それぞれ適応となる症状・疾患も異なります。
ここでは「どんな場合にどちらが使われるのか」を具体的に見てみましょう。

CPAPが第一選択となる「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」

CPAPの主な適応は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)です。
OSAは睡眠中に喉や気道が物理的に閉塞してしまうことで呼吸停止(無呼吸)が繰り返される病態で、肥満や顎の構造などによって気道が狭くなりやすい人に起こります。
症状としてはいびき、日中の強い眠気、起床時の頭痛などが典型的です。

このOSAに対し、CPAP療法は世界的に確立された第一選択の治療法です。
中等度以上のOSA患者さんには原則としてCPAP導入が推奨されており、適切な圧力設定のもと毎晩継続使用すれば、多くの場合で睡眠中の無呼吸低呼吸指数(AHI)は正常化し、睡眠の質が改善します。

CPAPによって酸素低下や覚醒反応が減少すれば、前述のように日中の眠気や生活の質(QOL)の向上が期待できるだけでなく、高血圧・心疾患・脳卒中などOSAに伴う長期的な健康リスクの軽減も報告されています。

実際、CPAP治療によりOSA患者の心血管疾患リスクが有意に低下したとの研究結果もあり、睡眠時無呼吸を甘く見ずに適切に治療することが重要です。

ASVが必要となる複雑なケース

ASVは、中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)やCPAPでは十分改善しない特殊なケースで検討される治療法です。

CSA(中枢性無呼吸)とは、睡眠中に脳の呼吸中枢からの指令が一時的に低下・消失してしまうことで起こる無呼吸状態を指します。
喉が詰まるOSAと違い、CSAでは気道自体は開通しているのに呼吸の努力(胸やお腹の動き)が止まってしまうのが特徴です。

典型的なCSAの原因としては、慢性心不全に伴うチェーンストークス呼吸(心不全で血中二酸化炭素の変動や循環遅延が起こり呼吸中枢が乱れる)、脳幹部の疾患や脳卒中、重度の腎不全、高地環境、あるいは麻薬性鎮痛薬の服用などが挙げられます。
このような中枢起因の無呼吸は、気道を広げるだけのCPAPでは根本的な解決が難しいため、ASVの出番となります。

ASVは上記のように呼吸そのものを補助できるため、例えば心不全に伴うCSA(チェーンストークス呼吸)をCPAPより効果的に改善できるとの報告があります。

際、心不全患者でOSAとCSAが混在するような場合にCPAPとASVの効果を比較した試験では、ASV使用群の方が治療アドヒアランス(継続使用率)が高く、数ヶ月のうちに心機能(LVEF)や血中BNP値の改善が見られたとの結果も報告されています。

さらに、OSAとCSAが両方存在する複雑な睡眠時無呼吸にもASVが検討されます。

例えばOSA患者さんの中には、CPAP適応後に新たに中枢性無呼吸が出現・残存してしまうケースがあり(複合型睡眠時無呼吸症候群と呼びます)、こうした「CPAPでは無呼吸が取り切れない」場合にASVへ切り替えることで無呼吸の抑制と呼吸パターンの安定化が図れることがあります。

このようにASVは、閉塞性無呼吸にはまずCPAP、それでも難しい場合に登場する治療と位置付けられます。
ただし次に述べるように、ASVを使用する際には満たすべき条件や注意点があります。

【最重要】ASV治療には専門医による慎重な判断が必要

ASVは非常に有用な治療法ですが、どんな患者さんにも安全に使えるわけではない点に注意が必要です。

特に心臓に負荷のかかる治療でもあるため、専門医の管理のもとで適応可否を慎重に判断することが大切です。

心機能が低下した心不全には原則禁忌

心不全で心臓のポンプ機能が低下している患者さん(特に左室駆出率LVEFが45%以下の重症例)には、ASVは原則として使用しません。
これは、大規模臨床試験の結果に基づく重要な安全上の指針です。

2015年に発表された約1300人の慢性心不全患者を対象とした研究(SERVE-HF試験)では、LVEF≤45%の心不全患者に対しASV療法を追加して経過を追いましたが、ASVを使用した群で使用しなかった群に比べて死亡率(特に心臓死)が有意に増加するという予期せぬ結果が示されました。

つまり、心不全が進行して心機能が落ちているような患者さんでは、ASV治療がかえって予後を悪化させる可能性があるのです。

これを受けて、欧州心臓病学会(ESC)や米国心臓病学会(ACC/AHA)など国際的なガイドラインでも
「LVEFが低下した心不全患者にASVは推奨されない(クラスIII:施行すべきでない)」と明記されました。

日本の循環器学会ガイドライン等においても同様で、現在ASVは「心不全患者のうち左心機能が保たれているケース」でないと基本的に適応できません。

以上より、心不全をお持ちで心機能が低い方に対してはASV治療は禁忌(原則禁止)と心得てください。

ASVは本来、心不全の呼吸障害の改善を期待されて普及しましたが、このエビデンスを踏まえ現在は慎重な扱いが求められています。

治療開始前には必ず心機能の評価を

上記の理由から、ASVを開始する際は事前に心臓の状態評価が不可欠です。
具体的には心エコー検査等で左室駆出率(LVEF)を測定し、重症心不全(LVEFが著しく低下した状態)がないことを確認する必要があります。

また既往歴として心筋梗塞や心不全の診断がある方は、ASVよりもまず心不全そのものの治療最適化が優先されます。

睡眠時無呼吸のタイプによっては、心不全治療を行う中で無呼吸が改善する場合もありますので、総合的な判断が重要です。

ASV療法を担当する医師は、患者さんの心機能や基礎疾患、無呼吸のタイプを総合的に勘案して適応を決定します。

不適切な患者さんにASVを使うことはかえって危険を伴いますので、ASV導入の際には必ず専門医の指導のもと進めるようにしましょう。

 

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CPAPからASVへの切り替えを検討するタイミングとは?

では、現在CPAP治療を行っている方が「ASVに変更した方が良いケース」とはどのような場合でしょうか。

一般に、CPAPを試しても無呼吸・低呼吸が十分に改善しない場合や、CPAP使用中に中枢性無呼吸が目立つような場合が該当します。
具体的には、CPAP導入後もAHI(無呼吸低呼吸指数)が一定値以下に下がらないケースです。

保険適用の基準でも「CPAP施行にもかかわらずAHIが15以下に改善しない場合にASV適応を検討する」とされており、一つの目安になります。

複合型睡眠時無呼吸(CPAP治療中に中枢無呼吸が残存・出現する状態)では、CPAPでは対処困難なためASV切り替えが検討されます。

例えばCPAPをしっかり装着しているのに依然として夜間の酸素低下や睡眠分断が続き、検査で中枢性無呼吸が多数観察されるような場合です。

このような場合、担当医がASVへの変更を提案することがあります。
ただし繰り返しになりますが、ASV適応には心機能のチェックなどクリアすべき条件があります

したがって自己判断で装置を変えることはできません。
CPAPの効果不十分や呼吸パターン異常が疑われる際は、必ず主治医に相談して適切なタイミングでの検討を行ってもらいましょう。

CPAPが合わないと感じたら…オンライン診療でご相談ください

「CPAPを使っているけれどどうも合わない」「しっかり治療しているはずなのに日中の眠気が取れない」など、お困りのことはありませんか。

CPAP治療は効果的とはいえ、毎晩マスクを装着する負担や機器の違和感などから継続が難しく感じる場合もあります。

また人によっては、CPAPで十分気道が開通しているにもかかわらず他の要因で眠気が残ってしまうケースや、副鼻腔炎・鼻づまり等の影響でマスク装着が辛いケースもあります。

治療効果が思わしくないときや機器への不満があるとき、決して「自分には無理だ」と自己判断で中止しないでください

例えばマスクのフィッティング調整や加湿器の使用で装着感が改善したり、設定圧の微調整で効果が向上する可能性があります。
それでも難しい場合には他の治療オプション(マウスピース療法や体位療法、ASV等)の検討余地もあります。

医師やスタッフと相談しながら工夫を重ねることで、解決できる問題は多いものです。
当院では対面診療はもちろん、遠方の方やお忙しい方にはオンライン診療も活用し、患者さんそれぞれに合った睡眠時無呼吸の管理をサポートしております。
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PAP治療に関するお悩みがある方は、一人で抱え込まずお気軽にご相談ください。

 

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがある場合はオンライン診療へ

「いびきがひどいと言われる」「日中に強い眠気があって集中できない」――これらは睡眠時無呼吸症候群(SAS)の典型的なサインです。

心当たりがある方やSASを指摘された方は、まず専門医による評価を受けることをおすすめします。

当院では睡眠時無呼吸症候群のオンライン診療(検査・診断・CPAP療法等)を実施しております。

遠隔からの相談・問診により必要な検査や治療方針を迅速にご提案可能です。
詳しくは当院ホームページをご覧いただき、ご都合の良いタイミングでご予約ください。
適切な治療によって、いびきや日中の眠気から解放され快適な生活を取り戻すお手伝いをいたします。

お一人で悩まずに、まずはお気軽にオンライン診療をご活用ください。

 

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睡眠時無呼吸症候群をもっと詳しく

睡眠時無呼吸症候群(SAS)について、さらに詳しく知りたい方は各記事をご確認ください。

治療

検査

予防

合併症

症状

原因

傾向

疑い

 

 

参考文献

Sleep Foundation. “ASV Machines: What They Are and How They Work.”
Medscape. “Obstructive Sleep Apnea (OSA) Treatment & Management.”
Medscape. “Obstructive Sleep Apnea (OSA) Treatment & Management – Approach Considerations.”
Cleveland Clinic. “ASV Machine: What It Is, How It Works & Effectiveness.” (Health Library, Last reviewed Dec 25, 2023)
日本循環器学会ほか. 「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン 2023年改訂版」
Cowie MR, Woehrle H, et al. “Adaptive Servo-Ventilation for Central Sleep Apnea in Systolic Heart Failure.” N Engl J Med. 2015; 373(12):1095-1105. (PMID: 26323938)

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