CPAP(持続陽圧呼吸療法)は、睡眠時無呼吸症候群(OSA)の重症例に効果的な治療です。睡眠中に気道を広げ、無呼吸・いびきを防ぐことで、日中の眠気や高血圧、心血管リスクの改善につながります[1]。
しかし「CPAPは一生使わないといけない」と言われることも多く、装着の煩わしさに絶望する方も少なくありません。本当にCPAPを一生続けなければならないのか、その真意をまず説明します。
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なぜ「CPAPは一生」と言われるのか?その本当の意味
OSAの原因の多くは肥満や鼻・喉の解剖学的問題であり、これら自体を完全に解決しない限り無呼吸は再発します。
CPAPはあくまで睡眠中の気道閉塞を補助する治療法であり、「根治」させる治療ではありません。
つまり、CPAPを外せば元の無呼吸状態に戻る可能性が高いのです。実際、CPAPを継続することで日中の眠気や血圧を改善できますが、装着をやめると症状は再燃します[1]。
この点は他の慢性疾患(糖尿病や高血圧など)の治療と同様で、薬をやめれば病状が元に戻るのと似ています。
そのため医師は「CPAPは一生の治療」と例えますが、それは「現状の原因を放置すれば無呼吸が戻る」という意味であり、必ずしも文字通り終生継続しなければならないというわけではありません。
例えるなら眼鏡のようなものです。近視眼鏡をかけて視界がはっきりしていても、眼鏡を外せば元通り見えにくくなります。
CPAPも同様に、装着している間は呼吸が安定し安心ですが、中止すれば無呼吸が復活します。
つまり、CPAPは「対症療法」「合併症予防対策」であり、原因療法ではない点をご理解ください。
ただし「CPAPは不変の一生モノ」ではなく、将来の体重変化や医療の進歩により新たな選択肢が生まれる可能性はあります。
第1の選択肢:CPAPからの「卒業」を目指す道
もしCPAPを「終わりにしたい」、すなわち無呼吸の根本改善によってCPAP装着をやめたいと考えるなら、医師の指導のもとで以下のような方法を検討します。
自己判断でやめるのは危険ですので、必ず再検査や相談を経て決めましょう。
体重減少による改善
OSAの最も多い原因は肥満です。減量に成功すれば、無呼吸の程度が大幅に減少することが多くの研究で示されています。
実際、8週間の集中的な減量・生活習慣改善プログラムを行った臨床試験では、内的対照群と比べて介入群の無呼吸指数(AHI)が約57%低下し、参加者の61.8%がCPAPを必要としなくなり、29.4%はOSAが完全寛解(AHI正常域)しました[2]。
ガイドラインでも、肥満を伴うOSA患者には減量療法の併用が強く推奨されています(エビデンスレベルC)[2]。
まずは食事制限や運動で減量を試み、6ヵ月以上続けて改善が見られれば、医師の下で再度ポリソムノグラフィー(PSG)などの検査を受け、CPAP卒業の可能性を評価します。
体重が大幅に減少し、無呼吸が劇的に軽減すれば、CPAPから「卒業」できる場合もあります。
外科手術の検討
肥満以外に鼻・喉の解剖学的狭窄が無呼吸の原因の場合、手術で気道を広げる選択肢があります。
例として口蓋扁桃腺の摘出(扁桃摘出術)、アデノイド切除、鼻中隔矯正、あるいは舌根部を引き上げる手術などです。最近では、口蓋部+舌根部の多段階手術(SAMS試験)が試験的に行われています。
このRCTではCPAP非許容者を対象に手術群と従来治療群を比較し、手術6ヵ月後の平均AHIは手術群で47.9→20.8、従来群で45.3→34.5と手術群の方が有意に低下しました(群間差-17.6)[3]。
また、AHI<10(寛解基準)に到達した割合は手術群26%、従来群8%(差18%)で、手術がかなり有効であることが示されました[3]。
もちろん手術の適応には限りがあり、重症例向けの侵襲的な方法もありますので、専門医とよく相談する必要があります。
自己判断禁止・再検査の徹底
CPAP中止を考える場合、必ず医療機関で再度評価を受けてください。
体重減少や手術を試みて無呼吸が改善したかどうかは、PSGなど正式な検査で確認する必要があります。
自己判断でCPAPをやめると、知らぬ間に無呼吸が再発し、合併症リスクが高まる危険があります。
医師と相談しながら段階的に検査・評価を行い、CPAP卒業の可否を慎重に判断しましょう。
第2の選択肢:「一生」の負担を減らし、快適に付き合う道
「一生CPAP」という言葉に苦痛を感じるなら、考え方と環境を変えて“負担”を軽減する方向にシフトしましょう。以下のような方法があります。
「一生の安心」への思考転換
CPAPは確かに装着に不便はありますが、その分、無呼吸による心臓への負担や日中眠気のリスクを軽減し、安心につながります。
CPAP治療により低下した血圧は薬物治療や減量以上の効果があるとされ、心血管リスクが下がることも報告されています[1]。
一方、CPAP未使用時には高血圧や動脈硬化が悪化する可能性があります。言い換えれば、「CPAPを使う負担」と、「無呼吸による健康リスク」のどちらがより重いか、比較してみてください。
多くの患者さんは当初「負担」と感じていたものも、使い続けるうちに「安心」に変わっていきます。
最新機器と工夫で快適に
CPAP装置やマスクは年々改良が進んでおり、使用感は向上しています。
たとえば、加湿器付きや静音設計の機種、呼気圧を低減する機能(C-Flex、EPRなど)、自動調整型CPAP(APAP)などが普及しています。
APAPに呼気圧低減(C-Flex)機能を併用した場合、通常CPAPと同等に睡眠中の呼吸障害を抑えつつ、患者の満足度が明らかに高いとのRCT報告があります[4]。
この試験ではAPAP+C-Flexを使用した群で、ほとんどの患者が「通常CPAPよりこちらが好ましい」と回答しており、適応患者では依存性が高まる可能性が示唆されました[4]。
また、マスクの選択肢も豊富で、鼻マスクや鼻孔パッド(ナザルマスク)、フルフェイスマスクなど、自分に合ったものを試すことができます。
最適なマスクと設定で乾燥や圧迫感を減らし、快適さを追求しましょう[4]。
オンライン診療・モニタリング活用
近年、遠隔診療や通信モニタリングが普及し、CPAPのフォローアップも自宅で行いやすくなりました。
機器内蔵の通信機能で使用データを送信し、医師や医療機関が遠隔で確認・指導を行うことが可能です。
あるRCTでは、テレメディシン介入群では6ヵ月後のCPAP使用時間に差はなかったものの、睡眠関連の生活の質(QOL)が有意に改善したと報告されています[5]。
つまり、通院せずとも細かなケアやアドバイスを受けられる仕組みが整っており、医療機関への頻繁な通院という苦痛が軽減できます。
オンライン診療の利用により、病院への移動時間や仕事の休みを気にせずCPAPを継続できる点も大きなメリットです。
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第3の選択肢:もしCPAPが合わないなら…他の治療法を再検討する
万一CPAP装置がどうしても身体に合わない、あるいは使い続けられない場合は、CPAP以外の治療法を検討しましょう。
ただし、CPAPで効果が得られなかった場合でも代替療法の効果には限界があるため、必ず専門医の指導下で行います。
口腔内装置(スリープスプリント)療法
上下の歯に装着するマウスピース(スリープスプリント)で下顎を前方に固定し、睡眠中に舌根部の気道閉塞を防ぎます。
主に軽~中等症のOSAに適応され、低侵襲である点が特徴です。システマティックレビューでは、CPAPと比較してAHI改善効果は劣るものの、治療後の眠気改善(ESS)には両者で有意差がないと報告されています[6]。
結論として、CPAPがゴールドスタンダードである一方で、「CPAPが使えない・好まない」患者にはマウスピース療法を選択肢とすることが推奨されています[6]。
体位療法(睡眠姿勢の工夫)
仰向けでのみ無呼吸が起こる「体位依存型OSA」の場合、横向き姿勢(または腹臥位)で眠るように工夫するだけで症状が軽減することがあります。
専用の背中側パッド付きウェアや枕で仰向け寝を防止する機器も市販されています。
ただし、体重増加などで病態が変化すると効果が弱まることもあります[7]ので、継続観察が必要です。
耳鼻咽喉科的手術
扁桃腺摘出やアデノイド切除といった上気道拡大手術も、中等度以下のOSAには有効なことがあります。
ガイドラインでも、OSA治療には手術療法(扁桃・アデノイド摘出等)を含めて多様な選択肢があることが示されています[8](※ガイドラインではCPAP・マウスピース・減量・手術等が列挙されています)。
先述の多段階手術やMaxillomandibular Advancement(顎骨前方移動術)など専門的な手術もありますが、まずは耳鼻科で相談し、患者さんの症状に応じた手術可否を検討します。
舌下神経刺激療法(Hypoglossal Nerve Stimulation)
比較的新しい治療で、舌を前方に突き出す神経を電気刺激して気道を広げる埋め込み型デバイスです。
CPAP療法がどうしても不可能な重症OSA患者に対し、欧州呼吸器学会(ERS)は「標準治療(CPAP)が耐容できない場合のサルベージ治療」として推奨しています[9]。
例えば、バイラテラル型の刺激装置では6ヵ月後のAHIが約45%改善したという報告があります[9]。
ただし適応基準が厳しく、高額かつ侵襲的な治療なので、専門機関での評価・選択が必須です。
以上、CPAPが合わない場合でも選択肢は複数あります。ただしどの治療も効果に個人差があり、ケースバイケースで最適な組み合わせを考える必要があります。最終的には専門家と相談し、自分のライフスタイルや病態に合った治療法を選択しましょう。
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、まずは専門医での検査・診断を受けることが大切です。近年はオンライン診療や簡易検査も普及しており、通院が難しい方も自宅で検査・相談できる環境が整いつつあります。
症状(いびき、日中の強い眠気など)に心当たりがあれば、かかりつけ医やオンライン睡眠外来で相談しましょう。適切に治療を開始すれば、健康への不安も軽減され、生活の質が大きく向上します。
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合併症
症状
原因
傾向
疑い
参考文献
[1] Carneiro-Barrera A, Amaro-Gahete FJ, Guillén-Riquelme A, et al. Effect of an interdisciplinary weight loss and lifestyle intervention on obstructive sleep apnea severity: the INTERAPNEA randomized clinical trial. JAMA Netw Open. 2022;5(4):e228212.
[2] McKay SG, Woodman R, Gleadhill IC, et al. Effect of multilevel upper airway surgery vs medical management on AHI and sleepiness in OSA: the SAMS randomized clinical trial. JAMA. 2020;324(9):889–898.
[3] Mulgrew AT, Cheema R, Fleetham JA, et al. Efficacy and patient satisfaction with auto-adjusting CPAP with expiratory pressure relief vs standard CPAP: a randomized crossover trial. Sleep Breath. 2007;11(1):31–37.
[4] Schoch OD, Baty F, Boesch M, et al. Telemedicine for continuous positive airway pressure in sleep apnea: a randomized, controlled study. Ann Am Thorac Soc. 2019;16(12):1550–1557.
[5] Pattipati M, Gudavalli G, Zin M, et al. CPAP vs mandibular advancement devices for obstructive sleep apnea: a systematic review and meta-analysis. Cureus. 2022;14(1):e21759.
[6] Verbraecken J, Vroegop AV, Hamans E, et al. Non-CPAP therapy for obstructive sleep apnoea. Breathe (Sheff). 2022;18(2):220045.