睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療として広く行われているCPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸)療法ですが、「効果を実感できるまでにどのくらい時間がかかるのか?」と不安に思う患者さんも多いでしょう。
結論から言えば、CPAPの効果は使用当日の夜から現れ始めます。
ただし、症状の改善をはっきり感じ取れるようになるまでの期間には個人差があり、数週間から数ヶ月かかることもあります。
本記事では、CPAP治療の効果が出るまでのタイムラインを期間別に解説し、なかなか効果を感じられない場合に考えられる原因と対処法、さらにCPAP治療をいつまで続ける必要があるのかについて、最新のエビデンスに基づき専門医がわかりやすく説明します。
最後に、SASが疑われる場合に当院で提供しているオンライン診療についてもご案内します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は森下駅前クリニックまで
保険適用
CPAP治療の効果が出るまで – 実は「最初の夜」から効果は出る!
CPAP療法では、マスクを通じて睡眠中に空気を送り込み、喉の気道が塞がるのを防ぐことで無呼吸や低呼吸を治療します。
装着初日から気道の開通が確保されるため、CPAPの効果は初回の夜から現れます。
実際、CPAPを一晩使用しただけで、睡眠中の無呼吸発作の回数が劇的に減少し、血中の酸素低下が改善します。
その結果、翌朝には注意力や目覚めの爽快感の向上が認められたとの報告もあります【1】。
患者さんによっては初日から「いびきが消えた」「夜中に何度も目が覚めなくなった」といった変化に気づくことも少なくありません。
もっとも、CPAP装置やマスクに慣れていない最初の数日は、装着感の違和感や機械の動作音などでかえって眠りづらさを感じる場合もあります。
しかし心配はいりません。
治療によって睡眠そのものの質は確実に向上しており、身体は着実に効果を得始めています。では、その効果を実感できるようになるまでに具体的にどのような段階があるのか、次の章で期間別に見ていきましょう。
期間別に解説!CPAP治療で実感できる効果のタイムライン
最初の夜~1週間
CPAP治療を開始して最初の数日以内で、多くの患者さんは睡眠環境の変化に徐々に慣れていきます。上記のように初夜から無呼吸そのものは解消されているため、身体面では即座に良い変化が起きています。【1】
例えば、夜間の低酸素状態が改善し、それに伴って夜間頻尿や朝の頭痛が早い段階で軽減することがあります。
また、睡眠中のいびきがその日からピタッと止まるため、ご家族から「初日からいびきが静かになった」と言われるケースもあります。
睡眠の分断が減ることで、「以前より熟睡できた」「起床時の疲労感が少ない」と感じる方も一部ではいます。
ただし、多くの方は使い始めの数日はマスクに違和感を覚えたり機械に気を取られたりして、主観的な睡眠の質向上を実感できるまでには至らないかもしれません。
最初の1週間程度は、新しい治療に身体を慣らす調整期間と考えてください。
1週間~1ヶ月後
治療開始から1〜2週間もすると、マスク装着や気流にも大分慣れてきて、CPAPをつけたままでもぐっすり眠れるようになる患者さんが増えてきます。
そうなると、日中の眠気や倦怠感の改善といった効果を実感し始める時期です。
実際、無治療だった時と比べて「昼間に居眠りしてしまうことが減った」「体が軽く感じる」といった変化が表れてきます。
エビデンスによれば、約3週間継続してCPAPを使用すると、臨床的に有意な疲労感の軽減と活力の増大が得られたとの報告があります【2】。
特に治療前に強い日中の眠気や疲労を抱えていた人ほど、その改善効果が顕著になることが示されています【2】。
この頃までに、抑うつ気分や集中力低下など、睡眠不足に関連して起きていた精神面の不調が改善してくる方もいます。
個人差はありますが、1ヶ月経つ頃には「睡眠の質が明らかによくなった」「以前より朝すっきり起きられる」と、多くの患者さんがCPAPの恩恵を自覚できるようになるでしょう。
1ヶ月~3ヶ月後
CPAP治療を開始してから数ヶ月が経過すると、睡眠の質向上による全身への良い影響がさらに確かなものとなります。
日中の強い眠気が解消し仕事や家事に支障がなくなるだけでなく、気分や認知機能の面でも改善が見られます。
例えば、不安感やイライラ感の軽減【2】、記憶力や注意力の向上といった報告があります。夜間低酸素状態の解消は身体のストレス反応を和らげるため、高血圧や2型糖尿病などの併存症をお持ちの方では、CPAP治療によってこれらの管理状態が改善する場合もあります。
実際、CPAP使用により収縮期・拡張期血圧が平均2~3mmHg程度低下したとのデータもあり【3】、特に降圧薬で十分にコントロールできていなかった高血圧がある患者さんほど血圧改善の恩恵を受けやすいとされています。【3】
こうした身体面の変化は静かに進行するため実感しにくいかもしれませんが、CPAPを継続することで健康リスクが着実に低減していることは知っておいてください。
3ヶ月以降~
3ヶ月を超えてCPAP治療を続ける頃には、患者さん自身が「もうCPAPなしでは眠れない」「以前の無呼吸のある睡眠には戻れない」と感じるほど、日常生活の質が向上していることでしょう。
熟睡できる恩恵により、趣味や仕事に前向きに取り組める活力が出たり、家庭内でも「いびきがなくなり一緒に安心して眠れる」とご家族の安心感も得られます。
さらに長期的なCPAP使用は、心血管疾患のリスク低減にもつながります。
例えば、適切にCPAPを使用している患者さんでは、未治療の場合に比べて脳卒中の発症リスクが有意に低下したとの研究報告があります【3】。
これは、CPAPが睡眠中の血圧変動や低酸素状態を改善し、心血管系への負担を減らすためと考えられています。
もちろんCPAPは高血圧や糖尿病の治療薬に置き換わるものではありませんが、睡眠の質を改善することでこれらの疾患管理を助け、全身の健康維持に寄与します。
このように、CPAP療法の効果は使い始めから長期にわたって段階的に現れ、継続するほど多方面に良い影響が得られるのです。効果を最大限に引き出すには、治療を毎晩しっかり継続することが重要です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は森下駅前クリニックまで
保険適用
「効果がない…」と感じる時にチェックすべき5つの原因と対処法
CPAPをしっかり使っているのに「思ったほど効果が感じられない…」という場合、以下のような原因が隠れているかもしれません。諦める前に、5つのポイントを確認し改善できることがないか対処してみましょう。
マスクが合っていない
CPAPマスクのフィットが不十分だと、隙間から空気が漏れて必要な陽圧が保てず、治療効果が大きく損なわれます【4】。
寝ている間に空気が漏れていると感じる場合や、朝起きたとき目や鼻が乾燥している場合は、マスクのサイズや装着方法を見直しましょう。
対処法としては、まずマスクのストラップを適切な強さに調整し、顔に密着するようフィッティングします(きつすぎると痛みや圧痕の原因になるので注意)。
それでも改善しない場合、自分の顔の形状に合った別のタイプのマスク(鼻だけ覆うタイプ、フルフェイスタイプ、鼻孔クッションタイプなど)を検討すると良いでしょう。
医師や担当技師に相談すれば、適切なマスク選びとフィッティングのサポートを受けられます。
設定圧が適切でない
CPAP装置の圧力設定(エア圧)が合っていないと、十分な陽圧が気道に加わらず無呼吸やいびきが残存してしまいます。
使用中にまだいびきや呼吸停止が見られる場合、圧力が不足している可能性が高いです【4】。
自己判断で装置をいじるのは危険なので、必ず主治医に相談しましょう。医療機関でCPAP装置のデータを確認すれば、一晩の無呼吸指数(AHI)やマスクリーク量がわかるため、必要に応じて圧力設定の再調整(CPAPの再チトレーション)を行います。
適切な圧力に設定し直すことで、残っていた無呼吸エピソードが消失し、治療効果が実感できるようになるはずです。
無意識の口呼吸
就寝中に口が開いてしまう「口呼吸」が原因でCPAPの効果が下がっているケースもあります。
鼻マスクや鼻孔クッションタイプを使用している場合、睡眠中に口が開くと空気がすべて口から漏れてしまい、気道に圧がかからなくなります。
その結果、喉の気道閉塞が防げず治療効果が得られません。また口から漏れる空気で喉や口腔内が極度に乾燥し、朝起きたとき口がカラカラに渇くのもサインです【5】。
対策としては、顎が外れないよう支える「チンストラップ(顎ベルト)」を併用して口呼吸を防ぐ方法があります【5】。あるいは、口と鼻を両方覆うフルフェイスタイプのマスクに変更するのも有効です。
また、鼻づまり等で鼻呼吸がしづらい場合は耳鼻科で治療したり、就寝前に鼻腔を洗浄する、CPAPの加湿器機能を使って鼻や喉の乾燥を防ぐ、といった工夫もしてみましょう。
使用時間が短い、または不規則
CPAPは必要な時にだけ使えばよい対症療法ではなく、「睡眠中は毎晩ずっと使い続けてこそ効果が得られる治療」です。
したがって、装着して眠る時間が極端に短かったり、今日は使ったが昨夜は使わなかったというように不規則な使用では、十分な効果は期待できません。
例えば睡眠時間7時間の方が毎晩2~3時間しかCPAPを使用しなければ、残りの数時間は無呼吸が続いている状態ですので、日中の眠気や体調不良はなかなか改善しないでしょう。
一般に1日4時間以上・週5日以上のCPAP使用で治療効果が現れるとされ【6】、最低限それくらいの使用を継続することが重要です。
理想的には就寝から起床まで装着するのが望ましく、「深い眠り」の時間帯にCPAPを外してしまうと効果が半減します【6】。
CPAP治療において継続時間は「量的な効果」に直結すると心得て、まずは毎日できるだけ長く装着する習慣をつけましょう。
装着にどうしても抵抗がある場合は、就寝前のリラックスタイムにマスクを付けて慣れる練習をする、圧力の立ち上がりを緩やかにするランプ機能を活用するなど、無理なく続ける工夫も取り入れてください。
他の病気の可能性
CPAPを毎晩適切に使い、データ上も無呼吸がしっかり抑制されているのに「それでも日中の眠気や倦怠感が取れない」という場合、睡眠時無呼吸以外に原因がある可能性も考えなくてはいけません。
例えば、重度の睡眠不足や不眠症、むずむず脚症候群などの他の睡眠障害が隠れていたり、うつ病や甲状腺機能低下症など全身倦怠感を来す疾患が合併しているケースもあります。
また、睡眠時無呼吸症候群そのものによる日中の強い眠気が、CPAPで呼吸が改善してもなお残存してしまう「残存過眠症(Residual Excessive Sleepiness)」と呼ばれる状態の人も一部にいます。
この残存過眠は治療前にもともと眠気が強かった若年患者や、CPAPの使用時間が短い人、そしてうつ傾向のある人に起こりやすいことが報告されています【6】。
いずれにせよ、CPAPを真面目に続けても症状が改善しない場合は自己判断せず主治医に相談してください。
必要に応じて詳しい検査を行い、他の原因疾患の治療や、過眠症状に対する対症療法(生活習慣の見直しや覚醒薬の検討など)を追加することで、改善の道筋が見えてくるはずです。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は森下駅前クリニックまで
保険適用
CPAP治療は一生必要?やめることもできるの?
CPAP治療を始めた患者さんからよく聞かれるのが、「この治療は一生続ける必要がありますか?いずれCPAPをやめることはできないのですか?」という質問です。
結論としては、睡眠時無呼吸症候群そのものが根本的に治らない限り、CPAP治療は基本的に生涯にわたり必要となります。
CPAPは歯の矯正器具やメガネのように、使用している間だけ症状をコントロールする対症療法です。
残念ながら「CPAPを○年間続ければ完治して後は不要になる」という性質の治療ではありません。【5】
実際、CPAPの使用を中断すればたとえ一時的に調子が良く感じても、数日以内に無呼吸は元の状態に戻り、眠気やいびきも再発してしまいます。
では一生絶対にやめられないのかというと、例外的にCPAPが不要になるケースも存在します。
それは睡眠時無呼吸の原因となっている要因が根本から改善された場合です。
例えば、肥満が原因でSASになっていた方が大幅な減量に成功した場合、睡眠中の気道閉塞が起こりにくくなり無呼吸が著しく改善することがあります。実際に体重の10〜15%減量すると無呼吸の重症度(AHI)が約50%減少したとの研究もあり、減量は症状緩和に大きな効果があります【7】。
しかし、体重を減らしても完全に治癒(AHIが正常化)するケースは多くなく、無呼吸が残ってしまう患者さんが大半です【7】。
したがって、「痩せたからもうCPAPは必要ないだろう」と自己判断で中止するのは危険です。減量以外にも、下顎前方矯正手術や扁桃摘出手術などで気道の構造的狭さを改善できれば無呼吸が軽減する可能性があります。
ただし、手術で劇的な効果が得られるのは一部であり、たとえ術後にAHIが低下しても軽症レベルの無呼吸が残存することも多いのです。
以上より、CPAP治療をやめて良いかどうかは専門医の判断のもと行う必要があります。
生活習慣の改善や手術後に「CPAPを外せるかもしれない」と思ったら、勝手に中止せず医療機関で睡眠検査を受けましょう。
無呼吸が再発しないレベルまで改善していると客観的に確認できれば、CPAP卒業が可能な場合もあります。
しかし多くの患者さんでは、無呼吸症候群が再燃しないようCPAP療法を継続することが生涯にわたって重要な体調管理法となります。【5】
CPAP自体は副作用の少ない安全な治療ですし、使い続けることで得られる睡眠の質や健康上のメリットは計り知れません。
根気強く治療を続け、もし苦痛や疑問があればその都度主治医に相談しながら、上手にCPAPと付き合っていきましょう。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがある場合はオンライン診療へ
「もしかして自分は睡眠時無呼吸症候群かも?」と思ったら、放置せずに専門医に相談することをおすすめします。
SASを放置すると、日中の眠気による集中力低下だけでなく、高血圧・心疾患・脳卒中・糖尿病など深刻な合併症リスクが高まることがわかっています。
とはいえ忙しくて受診の時間が取れない方や、まずは気軽に相談したいという方も多いでしょう。そうした場合は、オンライン診療(遠隔診療)を活用してみてください。
当院(森下駅前クリニック)では、睡眠時無呼吸症候群のオンライン診療を実施しております。
ビデオ通話を通じて専門医が問診を行い、症状やリスク因子の評価をいたします。
必要に応じて、簡易睡眠検査機器をご自宅にお送りし、在宅で睡眠検査(いびきや酸素濃度の測定)を行うことも可能です。
その結果に基づいて診断を確定し、適切な治療方針を提案いたします。
CPAP療法が必要と判断された場合も、オンラインで治療導入の説明を行い、装置のレンタルや使い方のサポートまで一貫して対応します。
オンライン診療なら通院の手間が省け、自宅にいながら専門的な診察を受けられます。
SASが疑われる症状(激しいいびき、睡眠中の無呼吸を指摘された、日中の強い眠気や起床時の頭痛など)がある方は、一人で悩まずお気軽に当院のオンライン外来をご利用ください。
早期に適切な対応をすることで、ぐっすり眠れる快適な生活と将来的な健康リスク低減につながります。専門医チームが皆様の快眠と健康を全力でサポートいたします。
お問い合わせ・ご相談もお気軽にどうぞ。あなたの健やかな眠りを、私たちがサポートいたします。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は森下駅前クリニックまで
保険適用
睡眠時無呼吸症候群をもっと詳しく
睡眠時無呼吸症候群(SAS)について、さらに詳しく知りたい方は各記事をご確認ください。治療
- 睡眠時無呼吸症候群のCPAP(シーパップ)治療とは?
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療方法 | 改善するための治し方・対処法
- 睡眠時無呼吸症候群の方が使える睡眠薬・睡眠導入薬は?
- 睡眠時無呼吸症候群は手術するべき?手術の種類や費用、リスク、おすすめの治療法をやさしく解説
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の機器(CPAP)はレンタルできる?費用やレンタル方法を解説します
検査
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は何科を受診すればいい?
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査入院とは?治すには入院が必要なの?
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査・治療には健康保険はおりる?適用されるの?
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査費用と治療費用 | 保険は適用される?
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査について解説!少しでも疑ったらまずは検査から!
- 睡眠時無呼吸症候群のAHI(無呼吸低呼吸指数)とは?
予防
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は治るのか | 自分でできる対策から治療法まで解説
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)を治す筋トレは?体を鍛えたら治る?
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)におすすめの寝方を紹介!ちょっとしたことでさらに効果を高める工夫も!
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の対策 | 生活習慣を改善することで予防をしよう
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の予防と対策は食事から!食べ物を見直すことから始めよう
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の予防は枕を見直すべき!ポイントや注意点、おすすめの寝方を紹介
合併症
症状
原因
傾向
疑い
参考文献
[1] Djonlagic I, et al. Sleep Med. 2015;16(6):697-702. (睡眠時無呼吸患者におけるCPAP初夜使用の効果を検証した研究。CPAP適用初夜から注意力の改善や主観的睡眠感の向上が認められています)
[2] Tomfohr LM, et al. Sleep. 2011;34(1):121-126.
[3] Javaheri S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2020;201(5):607-610.
[4] American Sleep Apnea Association. Troubleshooting CPAP Problems (2025).
[5] Mayo Clinic. CPAP machines: Tips for avoiding 10 common problems (2024).
[6] Sleep Foundation. Before and After CPAP Machine Effects: How Your Body Changes (2023).
[7] Sleep Foundation. How Weight Affects Sleep Apnea (2022).