睡眠時無呼吸症候群(SAS)でCPAP(持続陽圧呼吸療法)を利用している方にとって、出張や旅行、特に飛行機での長距離移動は大きなハードルに感じられるかもしれません。
「飛行機にCPAP装置を持ち込めるのか?」「保安検査や機内での取り扱いは?」「海外で電源が合わなかったら?」など、不安や疑問を抱く患者さんも多いでしょう。
本記事では、JAL・ANAをはじめ主要な海外航空会社(United Airlines、Emirates、Lufthansa等)にも対応した最新の航空会社ルール、事前準備から当日・機内でのポイント、保安検査、さらに海外での使用や時差ボケ対策まで、解説します。
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保険適用
CPAPは「手荷物として機内持ち込み」が大原則!
多くの患者さんがまず気になるのが「CPAPは機内持ち込みできるのか?」という点です。結論から言えば、CPAPはほぼすべての航空会社で医療用電子機器として『手荷物持ち込み』が原則となっています[1][2]。
預け入れ荷物には絶対にしないでください。万が一の紛失や破損、積み残し、温度・気圧変化によるトラブル、電源ON状態のまま預けてしまうことによる危険性など、リスクが非常に高いためです[1][2]。
特に以下の点を守りましょう。
- 搭乗手続き時にCPAPを持参していることを伝える
- 電池(バッテリー)は取り外し、必ず手荷物として持ち込む
- 日本・海外ともに機内でのCPAP使用が許可されているか事前に確認する
- 医師による診断書(英文含む)の携帯(必要な場合)
航空会社ごとの基本ルール
- JAL・ANA:CPAPは原則持ち込み可能。診断書や事前申告は不要だが、座席や電源利用を希望する場合は事前に相談[2][3]。
- United Airlines/Emirates/Lufthansa:事前申告・メーカーや型番・バッテリー情報の提供が必須。英文診断書やTravel Letterを求められる場合あり[4][5][6]。
【出発前の準備】完璧な旅行のための5ステップ・チェックリスト
ステップ1:航空会社への事前連絡
フライトの予約が済んだら、必ず航空会社に「CPAP持ち込み・利用希望」である旨を連絡してください。必要に応じて、以下の情報を用意します。
- 機種名・型番・製造元
- サイズ・重量・電源仕様
- バッテリー有無・種類・容量
航空会社によっては、バッテリーのW数・容量や「安全性証明書」提出を求められることもあります[1][4]。
ANAやJALは「ANAおからだの不自由な方の相談デスク」や「JALプライオリティゲストセンター」など専用窓口があり、CPAPの持ち込みや電源利用の可否、バッテリーの取扱いについて丁寧に対応してもらえます[2][3]。
海外航空会社(United/Emirates/Lufthansa等)は、公式サイトまたはカスタマーセンターで詳細な手続きが求められる場合も多く、英文診断書の提出や使用目的の説明が必要なこともあります[5][6]。
ステップ2:【海外の場合】主治医に「英文診断書」を発行してもらう
海外フライトや外資系エアライン利用時は、英文の「Medical Certificate」「Doctor’s Letter」「Travel Compliance Letter」など診断書・証明書を求められることが多いです[7][8]。
内容例:
- 患者氏名、生年月日、診断名(Obstructive Sleep Apnea等)、CPAP治療が必要な旨
- 携帯機器の型番・メーカー名・電源仕様
- 機内持ち込み・機内使用が必要な理由
診断書は英文で1通あれば複数の場面で役立ちます。必要に応じて日本語と英文の両方を用意しておくと安心です[7]。
ステップ3:持ち物のパッキングと最終確認
CPAP本体・マスク・チューブ・電源コード・変圧器・バッテリー・取扱説明書(英文含む)・診断書など、「旅行専用セット」としてまとめて準備しましょう[1]。
【必須アイテム一覧】
- CPAP本体(予備フィルターも)
- マスク・チューブ・加湿器(必要な場合)
- ACアダプタ・電源ケーブル
- 海外対応の変換プラグ(A/B/C/O型など、渡航先に合わせて複数用意)
- 必要に応じて変圧器(100V/220V両対応のCPAPが多いが念のため確認)
- バッテリー(リチウムイオンなら容量・個数に注意)
- 英文診断書・Travel Letter(機種情報入り)
- 保険証・診察券
- 各航空会社対応の説明書(ウェブサイトなどプリント推奨)
ステップ4:【海外の場合】電源プラグと電圧の確認
世界各国で電圧やプラグ形状は異なります。
- 日本:100V(A型)
- 米国・カナダ:110-120V(A/B型)
- 欧州:220-240V(C/E/F型など)
- アジア諸国・中東:国ごとに異なる
CPAPはほとんどが100~240V自動対応のモデルですが、古い機種や加湿器のみ別対応のものもあるため、取扱説明書で再確認しましょう[1][5]。
変圧器が必要な場合は余裕を持ったW数のものを用意し、現地での電力トラブルやヒューズ切れを防ぎます[5]。
また、現地での予備ヒューズやプラグアダプタは出発前に日本で購入しておくと安心です。
ステップ5:【機内で使用する場合】バッテリーの準備とルール確認
機内でCPAPを使いたい場合や長時間フライトの場合は、CPAP対応のポータブルバッテリーが必須です。
- バッテリーは原則「手荷物としてのみ」持ち込み可。預け入れ不可。
- 国際線では「フライト時間×1.5倍以上」使用できる容量の予備バッテリーが推奨[6][9]。
- リチウムイオン電池の場合は160Wh未満が一般的な基準です。
ANA/JALとも公式に「機内持ち込み可」「事前連絡で個別対応」と明記されています[2][3]。海外航空会社でも多くが同様ですが、機内使用には「メーカー指定」「バッテリー型番・容量情報」など詳細が求められる場合も多いので、必ず事前に航空会社の公式規定を確認しましょう[4][5][6]。
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【搭乗当日】空港での流れをシミュレーション
保安検査場でのポイント
- 手荷物検査の際は「医療機器(CPAP)です」と自己申告しましょう。保安検査員はCPAPに慣れている場合も多いですが、英文説明書や診断書があるとスムーズです[1][7]。
- バッテリーやアダプタは分かりやすく取り出しやすい位置に入れておき、必要があれば別に提出します。
- 液体(水タンク)は容量に注意し、規定量を超える場合は空にしておくと無難です(加湿器機能の水分は検査時に確認される場合あり)。
- セキュリティチェック時に分解や稼働テストを求められることはほぼありませんが、不測の事態に備えて取扱説明書も持参しましょう。
搭乗後・機内での流れ
- CPAPは座席下または前席ポケットに収納し、使用時はCA(客室乗務員)に事前に相談。
- 使用開始は「シートベルト着用サイン消灯後」が基本。離着陸時は電源オフが原則です[3][4]。
- 座席の電源が使える場合も、出力やプラグ形状が異なることが多いため、必ず自前のバッテリーを持参。
- 周囲への配慮として、マスクの音や加湿器の蒸気に注意。静音タイプのCPAPや「マイクロ型マスク」などを活用しましょう。
- バッテリー切れを防ぐため、長距離フライトや乗り継ぎ時は「新しいバッテリー・予備バッテリー」を必ず携行しましょう。
- フライト後はマスク・チューブの洗浄や乾燥も忘れずに行い、現地での睡眠環境も整えます。
国際線の追加注意点
- United Airlines:CPAP持ち込み・使用には事前申請が必須で、機種によっては「特別な医療機器認証」が必要[4]。
- Emirates:公式サイトでCPAP持ち込み・使用の流れを明記。バッテリー情報の提供とTravel Letter(医師証明書)が必須[5]。
- Lufthansa:CPAPの持ち込みは医療機器として許可。欧州便は電源プラグ形状が特殊なため、専用アダプタ必須[6]。
【専門医が教える】CPAPユーザーのための時差ボケ対策
飛行機での長距離移動では「時差ボケ」も大きな問題になります。SAS患者さんは、CPAPを継続使用することで、旅先でも質の高い睡眠を保つことが重要です[10][11]。
- 機内・現地でも毎晩CPAPを継続して使用
- 旅行直前から出発地・目的地の時差にあわせて睡眠時間を調整
- 到着後は太陽の光を積極的に浴び、体内時計の調整を促す
- 適度な運動や食事時間の調整も有効
- メラトニン補助食品の活用も有効性が認められています[12]
さらに、最新のRCTでもCPAP治療継続が睡眠の質・認知機能・日中活動性の改善につながることが確認されており[10][11]、旅行中の体調維持にも役立ちます。
【海外でのCPAP使用】現地で注意したいポイント
- ホテル・宿泊施設では「事前に電源・プラグの種類」を確認
- 水道水の衛生環境に注意し、加湿器用の水は市販のミネラルウォーターや精製水を利用
- 現地での気圧変化や乾燥にも注意し、マスクフィットや加湿機能を調整
- CPAPが故障した場合の対応先(現地代理店・購入元)を事前に調べておくと安心
- 万一のトラブルに備え、日本の主治医・専門クリニックの連絡先も控えておく
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがある場合はオンライン診療へ
2024年6月以降、CPAP療法も保険適用でオンライン診療が可能となり[13]、自宅で専門医のフォローアップが受けられる時代となりました。
遠方の患者さん、頻繁な通院が難しい方も、検査やCPAP療法の継続管理、旅先からの相談もオンラインで気軽に行えるようになっています。
睡眠時無呼吸症候群が疑われる方は、ぜひオンライン診療の活用を検討してください。
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合併症
症状
原因
傾向
疑い
参考文献
[1] 帝人ファーマ株式会社. 飛行機を利用して旅行・出張先などでCPAP装置をご使用になる方へ.
[2] ANA公式ウェブサイト「睡眠時無呼吸症候群(CPAPご利用)のお客様」
[3] JAL公式ウェブサイト「CPAP機器の持ち込み・利用について」
[4] United Airlines. Medical Devices Onboard: CPAP and Oxygen Use.
[5] Emirates. Travelling with Medical Devices.
[6] Lufthansa. Travelling with medical equipment.
[7] ResMed. Travel with CPAP devices – compliance and documentation.
[8] 睡眠医療ガイドライン委員会. 睡眠時無呼吸症候群診療ガイドライン2020.
[9] Sleep Health Foundation. Travelling with CPAP.
[10] J. M. Montserrat et al. Effectiveness of CPAP treatment in daytime function in sleep apnea syndrome: a randomized controlled study. Am J Respir Crit Care Med. 2001;164(4):608-613.
[11] Oumaïma Benkirane et al. Impact of CPAP Therapy on Cognition and Fatigue in Patients with Moderate to Severe Sleep Apnea: A Longitudinal Observational Study. Brain Sciences. 2024;14(2):465.
[12] Herxheimer A, Petrie KJ. Melatonin for the prevention and treatment of jet lag. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(2):CD001520.
[13] 無呼吸ラボ. オンライン診療について – 睡眠時無呼吸症候群のCPAP治療がオンライン診療でも可能に.