CPAPで痩せるって本当?
CPAPはダイエット器具ではない
結論から言えば、CPAP(シーパップ)治療自体は直接的に体脂肪を減らす「ダイエット器具」ではありません。
CPAPは睡眠中の気道を陽圧で広げて無呼吸を防ぐ医療機器であり、その主目的は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状改善です。
CPAPを装着することでカロリーが消費されるわけでも、脂肪が燃焼するわけでもありません。
したがって、CPAPを付けただけで急激に体重が減るという即効性のある減量効果は期待できません。
実際の臨床研究でも、CPAP治療そのものが直接体重減少をもたらすという明確な証拠はありません。
ただし「CPAPを始めたら痩せた」という声があるのも事実であり、それはCPAPが間接的に体重管理に良い影響を与える可能性があるためです【1】。
以下では、その間接的なメカニズムについて詳しく解説します。
睡眠の質改善が体重管理にプラスに働く理由
CPAP治療によって睡眠の質が大きく向上すると、結果的に体重管理にプラスに働くことが分かっています【1】。
睡眠不足や睡眠の質の低下は、食欲や代謝を司るホルモンバランスを乱し、太りやすい体質を招くからです。
具体的には、睡眠不足になると食欲を抑えるホルモン「レプチン」が減少し、逆に食欲を増進するホルモン「グレリン」が増加します。
その結果、十分に眠れていないとき人は必要以上に空腹を感じやすくなり、つい過食や高カロリーな食品への欲求が高まってしまいます【2】。
実際、慢性的な睡眠不足は肥満リスクの上昇と関連していることが多数の研究で報告されています。
また、睡眠の質が低いと日中の倦怠感や集中力低下を招き、身体活動量が減ってしまう傾向があります。
疲れて動けないために運動量が落ち、結果として消費エネルギーが減って体重が増加しやすくなるのです。
CPAP治療で睡眠の質が改善されれば、これらの悪循環が断ち切られます。
深く質の良い睡眠が取れるようになると、レプチン・グレリンの分泌バランスが正常化して過剰な食欲が抑えられ【3】、さらに日中にシャキッと目覚めることで「体を動かそう」という意欲も自然と湧きやすくなります。
その結果、「痩せやすい生活リズム」を取り戻すことができるのです。
つまりCPAPはダイエット器具ではないものの、睡眠状態を改善することで食欲や活動量に良い変化をもたらし、間接的に体重コントロールをサポートする役割が期待できるのです【1】。
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睡眠時無呼吸症候群(SAS)と肥満の深い関係
肥満が無呼吸を悪化させるメカニズム
肥満と睡眠時無呼吸症候群(SAS)は互いに深く関係しています。
まず「太っていること」それ自体がSASの最大のリスク要因です【1】。
実際、SAS患者の多く(報告にもよりますが約60~90%)は過体重または肥満であることが知られています【2】。
肥満により首や喉周りに脂肪がつくと、睡眠中に気道(空気の通り道)が物理的に圧迫されて狭くなります【2】。
イメージとしては、柔らかいホース(気道)の周囲に脂肪という重りが付いてホースが押し潰され、空気の通り道が細くなるような状態です。
また、肥満でお腹周りに脂肪が蓄積すると横隔膜が押し上げられ肺が十分に広がりにくくなり、結果として気道の内径を広げる力(肺の引っ張り)が弱まるため、喉の気道がさらに塞がりやすくなります【2】。
このように体脂肪の過剰は解剖学的・生理学的にSASを悪化させる方向に作用します。
現に、体重が増えるとSASの程度(無呼吸の頻度)が悪化し、反対に減量すると改善することが長期研究で示されています。
例えば米国の研究では、体重が10%増加すると無呼吸低呼吸指数(AHI)が約32%悪化し、逆に体重を10%減らすとAHIが約26%改善したとの報告があります【4】。
AHI(無呼吸低呼吸指数)は1時間あたりの無呼吸・低呼吸の発生回数を示す指標で、この数値が高いほど重症です。
肥満によりAHIが悪化するのは、上述したように首周りの脂肪付着や肺機能低下で気道閉塞が起きやすくなるためです。
実際、肥満度を表すBMI(体格指数)が高い人ほどSASを発症しやすく、BMIの上昇に伴いSAS有病率やAHIも上昇する相関関係が認められます【2】【4】。
つまり肥満はSASを招き悪化させる最大の原因なのです。
無呼吸による睡眠不足が太りやすい体を作る
逆に、SASによって引き起こされる睡眠不足や低酸素状態そのものも、肥満を助長する方向に働きます。
何度も呼吸が止まるSAS患者は深い睡眠が阻害されて常に睡眠不足の状態にあり、これがホルモンバランスの乱れを招きます。
先述した通り、睡眠不足は食欲増進ホルモンのグレリン増加と、食欲抑制ホルモンのレプチン減少を引き起こします【2】。
その結果、SASの患者さんは満腹感を感じにくく 頻繁にお腹が空いてしまう傾向があります。
さらにSASでは夜間低酸素によるストレスで交感神経が慢性的に亢進し、コルチゾールなどストレスホルモンが分泌されやすくなります。
コルチゾールには血糖値を上げ脂肪を溜め込みやすくする作用があるため、SASは代謝機能の面でも肥満を悪化させる可能性があります。
また日中の強い眠気や倦怠感のせいで運動量が減り、エネルギー消費が低下してしまうことも太りやすさに拍車をかけます【2】。
このように、「肥満が無呼吸を招き、無呼吸がさらに肥満を招く」という悪循環が成立してしまうのです。
事実、SAS患者は同じBMIの健常者に比べても体重増加しやすいとの報告もあります【2】。
以上より、睡眠時無呼吸症候群と肥満は互いに負の影響を及ぼし合う密接な関係にあります。
この悪循環を断ち切るためには、SASの適切な治療と体重管理の両面からアプローチすることが重要です。
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CPAP治療で期待できる体質改善効果
熟睡による食欲ホルモン(レプチン・グレリン)の正常化
CPAP治療により毎晩ぐっすり眠れるようになると、乱れていたホルモンバランスが正常化し始めます。
先に触れたレプチンとグレリンの例では、CPAP導入後わずか数日でグレリン値(空腹ホルモン)が有意に低下し、食欲の過剰な亢進が抑えられることが研究で示されています【3】。
ドイツの研究では、中等症以上のSAS患者でCPAP治療を開始したところ、2日後には血中グレリン濃度が健常者とほぼ同等まで低下したとの報告があります【3】。
一方、レプチン(満腹ホルモン)についてはCPAP開始直後には大きな変化がなくとも、8週間ほど治療を継続すると有意に低下する(=正常化する)ことが確認されました【3】。
肥満のSAS患者では治療前にレプチン値が異常に高い(※レプチン抵抗性の可能性)ケースがありますが、CPAP療法によりこれが減少することはホルモン環境の改善を意味します。
つまり、CPAPでしっかり熟睡できるようになると、「空腹を感じやすい・満腹感を得にくい」という太りやすいホルモン状態が是正され、適正な食欲に戻っていくことが期待できます。
この効果は特に夜間の間食や過食の抑制に役立つでしょう。
実際、CPAPを使い始めてから「夜中に起きて間食する習慣が無くなった」「甘い物への異常な欲求がおさまった」という声も聞かれます。
以上のように、CPAP治療は睡眠の質を高めることでレプチン・グレリンなど食欲調整ホルモンの分泌リズムを正常化し、結果として過度な摂食を防ぐ効果が期待できるのです【3】。
日中の活動量増加による消費カロリーUP
CPAP治療により睡眠中の無呼吸が解消すると、朝の目覚めが劇的に改善し日中の眠気や倦怠感も軽減します。
十分な睡眠でエネルギーが回復すると、「体を動かそう」「外出しよう」という意欲がわいてくるものです。
実際、CPAP導入後に日中の活動量(歩数や運動量)が自然と増えたという報告は少なくありません。
睡眠不足だった頃には休日はほとんど家から出ずに過ごしていた方が、CPAP治療後は「趣味のスポーツを再開できた」「積極的に散歩や運動を楽しめるようになった」といったエピソードもあります。
このように活動量の増加は消費エネルギーの増加につながります。
何もしなくても基礎的に消費されるエネルギー(基礎代謝)に加え、日常生活や運動で消費されるエネルギー量が増えれば、当然ながら体重は減りやすくなる方向に向かいます。
さらにCPAPでいびきや無呼吸が改善すると、睡眠中の体へのストレス負荷が減るため筋肉の疲労回復も促進され、慢性的な筋力低下が改善する可能性もあります。
筋力がつけば基礎代謝も向上します。
このように、CPAP治療は間接的に日中の身体活動を活発化し、「消費カロリーが増える体質」への改善を後押しします。
ただし後述するように、CPAP治療開始直後はむしろ基礎代謝が一時的に低下するケースも報告されています【4】。
治療前は睡眠中の無呼吸に対抗するため体が奮闘してエネルギーを消耗していたのが、CPAP導入によって睡眠が安定する分エネルギー消費が減るためと考えられます【4】。
この現象自体は身体が効率良く休めている証拠でもあるのですが、その分「以前と同じ食事量だと太りやすくなる」可能性がある点には注意が必要です【4】。
いずれにせよ、CPAP治療によって日中活動がしやすくなる恩恵を活かし、意識的に運動習慣を取り入れることが体重管理には重要となります。
代謝機能の改善
CPAP治療は睡眠中の低酸素状態を是正することで、全身の代謝機能にも良い影響を与えます。
SASでは夜間低酸素や睡眠分断によってインスリン抵抗性(血糖を下げるホルモンの効きづらさ)が生じやすく、糖代謝が悪化しているケースが多いことが知られています。
またコレステロールや中性脂肪など脂質代謝も乱れ、高血圧・メタボリックシンドロームの一因ともなります。
CPAPで正常な睡眠と十分な酸素供給が保たれるようになると、こうした代謝異常が改善する可能性があります。
実際、CPAP治療により高血圧が改善したり血糖コントロールが向上したとの研究もあります。
ある研究では、CPAP治療を3か月間行った肥満のSAS患者で、血中アディポネクチン(脂肪細胞由来の善玉ホルモン)の増加やインスリン抵抗性指標の改善が認められたと報告されています【4】。
これはCPAPによって脂肪肝や慢性炎症が軽減し、体内の代謝環境が良くなったことを示唆します。
代謝機能が改善すれば太りにくく痩せやすい身体に近づくため、長期的な体重管理に追い風となります。
ただし、CPAP治療のみで劇的な代謝改善・減量効果が得られるわけではない点は押さえておきましょう。
CPAPはあくまで土台を整える治療です。
例えば同じ食事制限や運動をするにしても、CPAPで睡眠と体調が整った状態の方が効果が出やすくなります。
代謝が上がりホルモン環境が正常化していれば、減量のための生活習慣改善もスムーズに軌道に乗るでしょう。
したがって、CPAP治療は肥満体質の改善にとって重要な助っ人ではありますが、それ単体で脂肪を燃やす魔法ではないことを理解する必要があります。
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実際に「CPAPで痩せた」体験談・報告はある?
CPAP治療を始めた患者さんの中には、「CPAPのおかげで体重が減った!」と感じている方もいます。
しかしながら、その体験談の背景には様々な要因があることに注意が必要です。
まず、CPAP導入後に体重が減少したケースでは、多くの場合同時に生活習慣の改善にも取り組んでいることが挙げられます。
例えば、CPAPで日中元気になったのをきっかけにウォーキングや運動を始めた、夜の間食をやめてみた、といった努力が並行しているのです。
CPAP治療が良質な睡眠をもたらしたことで本人の健康意識が高まり、ダイエットに本腰を入れられた結果、減量に成功したというケースも多いでしょう。
つまり「CPAPで痩せた」というより「CPAPがきっかけで生活改善が進み、その結果痩せた」というのが実情と考えられます。
実際、医学的な研究でもCPAP単独療法では体重に大きな変化は生じにくく、食事療法や運動療法を組み合わせた場合に初めて有意な減量効果が現れると報告されています【4】。
一方で稀に、CPAP治療だけで数kg程度体重が落ちたという報告もあります。
これは、慢性的な睡眠不足状態が解消されたことで体内の水分バランスが整いむくみが取れた、筋力が回復して基礎代謝が上がった等の間接的効果が考えられます。
またネット上の口コミでは、「CPAPを一晩使っただけで食欲が適正化し、その後大幅減量に成功した」という極端な成功談も見られます。
しかしこうした劇的なケースは非常に個人差が大きく、万人に当てはまるものではありません。
むしろ科学的データでは、CPAPを始めたことで体重が増えてしまうケースも一定数報告されています【4】。
前述のとおり、CPAPで基礎代謝がやや低下することや、治療に安心して食事量が増えてしまうことが原因と考えられます。
要するに「CPAPで痩せる」かどうかは人によって様々であり、過度な期待は禁物です。
重要なのは、CPAP治療は減量を直接もたらす魔法ではないものの、減量しやすい身体と生活習慣を手に入れるための土台になってくれるという点です【1】。
実際に海外の研究では、CPAPで無呼吸をしっかり管理したSAS患者は、未治療の患者に比べて減量プログラムの成功率が高くなる傾向が示唆されています【2】。
CPAPで睡眠と体調を整えつつ取り組めば、減量の効果も出やすく維持しやすいというわけです。
痩せるために大切なのはCPAP+生活習慣の改善
バランスの良い食事と運動の必要性
SASの治療にCPAPは非常に有効ですが、「痩せる」という観点では生活習慣の改善が不可欠です。
肥満がSASの主な原因である以上、根本対策として体重を適正範囲に落とすことが重要だからです。
実際、日本呼吸器学会のガイドラインでも、肥満を伴うSAS患者には減量(食事療法・運動療法)を第一に推奨しています【5】。
具体的には、摂取カロリーを適切に抑えたバランスの良い食事と、定期的な有酸素運動を生活に取り入れることが基本となります。
食事面では、野菜やタンパク質を中心に据え、脂質・糖質の過剰摂取を控えることが重要です。
一方、運動面では、ウォーキングやジョギング、水泳など無理なく続けられる有酸素運動を週に数回行うことが推奨されます。
これに筋力トレーニングを適度に組み合わせると基礎代謝向上にも役立ちます。
CPAPで睡眠の質が改善すれば、こうした食事管理や運動も従来より取り組みやすくなるはずです。
夜更かしや睡眠不足が解消されることで規則正しい食事リズムが作りやすくなり、日中も体を動かす元気が出てくるからです。
「CPAPを使っているから自動的に痩せるだろう」と油断して高カロリーな生活を続けていては、かえって前述のように太りやすくなってしまう可能性もあります【4】。
そうならないためにも、食事と運動の改善なくして減量なしという基本を忘れないようにしましょう。
CPAPはあくまで肥満解消を手助けする存在であり、最終的に体重を落とす主役は患者さん自身の生活習慣です。
CPAPは“痩せやすい体質づくり”のサポート
改めて強調しますが、CPAP治療そのものは脂肪を燃焼させる効果があるわけではありません。
しかし、CPAPでしっかり熟睡できるようになると体質が改善し、「痩せやすい体」へと近づくことは間違いありません【1】【3】。
言い換えれば、CPAPはダイエットの土台となる健康な体調・睡眠リズムを提供してくれるツールです。
睡眠の質が向上すれば食欲が適正化し、活動意欲も湧き、代謝も改善します。これは減量のための下地として非常に有利な状態です。
実際、CPAP治療を継続しながら地道なダイエットを行った患者さんでは、AHI(無呼吸指数)の劇的な改善が報告されています【4】。
あるケースでは、CPAPと管理栄養士の指導による食事療法を並行して半年で体重を15kg減らし、AHIが重症域から軽症まで改善した例もあります。
このように、CPAPは単体で体重を落とす魔法の器具ではないものの、「質の良い睡眠」という痩せるために欠かせない要素を提供してくれる点で、減量成功の重要なサポーターなのです。
特に長年SASで眠れていなかった方にとって、CPAPはまず健康の土台を整える意味があります。
土台が整えば、あとは本人の努力次第で着実に減量という成果に結びついていくでしょう。
医師に相談しながら取り組むことが重要
CPAP治療中の体重管理やダイエットは、ぜひ主治医や専門家に相談しながら進めてください。
自己流の過度な食事制限や無理な運動は、かえって健康を損ねたりCPAP治療の継続を難しくしてしまう恐れがあります。
例えば急激な断食ダイエットで体調を崩せば、CPAPの装着も苦痛に感じてしまうかもしれません。
適切な減量ペース(一般には月に体重の5%以内など)や栄養バランスは、医師や管理栄養士の指導を仰ぐのが安心です。
また、CPAPを使っていく中で体重が変化した場合、機器の気圧設定の見直しが必要になることもあります。
体重減少によって気道の閉塞状況が改善すれば、将来的にCPAPの圧を下げたり最終的にはCPAP卒業(離脱)が可能になるケースもありますので、そうした節目も含めて定期受診時に相談すると良いでしょう【4】。
逆にCPAP治療中に体重が増えてしまった場合は、無呼吸が悪化していないかを医師に確認してもらい、必要なら設定圧の調整や追加の生活指導を受けることが大切です。
いずれにしても、CPAP治療と減量は二人三脚です。
一人で悩まず医療者のサポートを受けながら取り組むことで、安全かつ効果的に「痩せやすい健康な身体」を手に入れていきましょう。
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よくある質問(FAQ)
Q1. CPAPは長生きに役立ちますか?
A. はい、睡眠時無呼吸症候群の適切な治療であるCPAPは、結果的に健康寿命を延ばすことに寄与すると考えられます。
SASを放置すると高血圧や心臓病、脳卒中など命に関わる合併症リスクが高まることが分かっています。
しかしCPAP治療で無呼吸や低酸素状態を改善すれば、これら合併症の発症リスクを大幅に減らすことができます。
例えば、重症SAS患者を追跡した研究では、CPAP非使用の人は使用している人に比べ心血管イベントや死亡率が有意に高かったとの報告があります。
あるデータでは未治療の重症SAS患者は同年代の健常者より死亡率が2.6倍にも上るとされますが【6】、CPAP治療にしっかり取り組めばそうしたリスクを健常者と同等レベルまで低減できると期待されています。
実際、CPAPを毎日使用しているSAS患者は、日中の眠気や集中力低下が改善するため交通事故などの危険も減り、血圧コントロールも良好になります。
これらの積み重ねが「長生き」につながると言えるでしょう。
ただしCPAPは薬のように直接寿命を延ばす効果があるのではなく、あくまでSASによる健康悪化要因を取り除くことで結果的に寿命へプラスに働くという位置づけです。
Q2. いびきは体重が何キロ以上だと起こりますか?
A. いびきの有無を判断する明確な「体重○kg以上」という基準はありません。
体重そのものより肥満度(BMI)や首周りの太さがいびき・無呼吸との関連指標になります。
一般にBMI25以上の肥満体型ではいびきをかきやすくなりますが、個人差が大きく、一概に何kg以上なら必ずいびきをかくとは言えません。
例えば身長170cmの方なら体重72kg程度でBMI25となりますが、この体重を超えたら即いびき発生というわけではありません。
骨格や筋肉量、脂肪の付き方にも左右されます。ただし統計的には太って首回りに脂肪が付くほど気道が狭くなりいびきのリスクは高まるのは事実です【2】。
目安として、男性では首周径が40cm以上、女性では35cm以上だと睡眠時無呼吸のリスクが高いとされています。
体重よりもBMIや首囲に着目して管理し、肥満傾向にある場合はいびき対策・無呼吸予防のためにも減量を心がけると良いでしょう。
Q3. CPAP治療中に体重が減るとAHIは下がりますか?
A. はい、一般的に体重が減少すればAHI(無呼吸低呼吸指数)は改善する傾向があります【4】。
AHIは睡眠時無呼吸症候群の重症度を示す指標で、この値が低いほど症状が軽いことを意味します。
肥満は無呼吸の主要因の一つですから、減量により気道周囲の脂肪が減って喉の通りが良くなれば、無呼吸エピソードの頻度(AHI)は下がります。
実際、前述の研究でも10%の減量でAHIが約26%低下したと報告されています【4】。
したがって、CPAP治療中でも体重が落ちれば機械が検知するAHIも徐々に低下していく可能性が高いです。
特にCPAPの圧設定が固定式の場合、減量により以前より低い圧でも無呼吸が出にくくなることがあります。
ただし、AHIの改善幅は減量量や元の肥満度によります。
大幅な減量で劇的にAHIが改善する例もあれば、軽度の減量ではあまり変化しない例もあります。
また骨格など他の要因で無呼吸が起きている場合、痩せてもAHIがゼロにならないこともあります。
それでも減量はAHI改善にほぼ確実に寄与するため、CPAP使用者にとっても適正体重への減量は大切です。
主治医と相談しつつ体重変化とAHI傾向を見守り、必要に応じてCPAPの圧調整も行ってもらいましょう。
Q4. 無呼吸症候群は痩せたら治りますか?
A. 肥満が原因の場合は、痩せることで大幅に改善し「治った」と言える状態になる可能性があります。
実際、軽症~中等症のSAS患者で減量により無呼吸が完全になくなった例も報告されています。
特にBMIが高い肥満タイプの方では、適正体重まで減量することで気道の狭窄要因が取り除かれ、睡眠中の無呼吸発生がゼロに近づくことがあります。
ただし、「痩せれば必ず治る」とは言い切れません。
SASには肥満以外にも顎の骨格や扁桃肥大、舌の大きさ、鼻づまりなど様々な原因が関与します。
痩せてもこれら解剖学的要因が強い場合、無呼吸が残存することがあります。
例えば顎が小さい(下顎後退)タイプの方や、扁桃腺が極端に大きい方では、標準体重になっても一定の無呼吸が続く可能性があります。
そのため、減量はSAS改善の有力な手段ではありますが、痩せた後も症状が残るかどうかはケースバイケースです。
一度「治った」と思っても再度太ってしまえば無呼吸が再発する可能性もあります。
ですので、痩せた後もしばらくは睡眠検査で無呼吸の有無を確認し、医師の判断で治療を終了するのが望ましいです。
完全に治癒したかどうかは専門的な評価が必要ですが、少なくとも肥満を解消することはSAS克服への近道であるのは間違いありません【4】【5】。
Q5. CPAPは1日何時間つければいいですか?
A. 就寝中はできるだけ長時間、毎日使用することが理想的です。
基本的には*眠っている間はずっとCPAPをつける」とお考えください。
具体的な時間で言えば、人によりますが普通は6~8時間程度の睡眠に相当します。
CPAP治療の効果を十分得るには、毎晩4時間以上の使用が一つの目安とも言われています【6】。
実際、保険診療上でもCPAPの継続利用条件として「装着4時間/日以上」が基準になっています。
ただし4時間はあくまで最低ラインであり、それより長く使えば使うほど無呼吸の抑制効果は高まります。
途中で外して残りの睡眠をCPAPなしで過ごすと、その間に無呼吸が発生してしまい治療効果が半減します。
したがって、夜寝入ってから朝起きるまでフルにCPAPを装着するのがベストです。
どうしても中途覚醒時に外してしまう癖がある方は、再入眠時に忘れず付け直すようにしましょう。
またお昼寝をする場合も、30分以上寝るならCPAPを使用することが望ましいです。
CPAPは習慣化すれば違和感なく朝まで付けていられるようになりますので、「何時間まで」というより「寝ている限り常に」使うよう心がけてください。
Q6. CPAPを使っている芸人は誰ですか?
A. 日本でも睡眠時無呼吸症候群を公表しCPAPを使用しているお笑い芸人の方が増えています。
最近話題になったのは、テレビ朝日の人気番組『アメトーーク!』のネット配信企画で取り上げられた「シーパップ芸人」という回です【6】。
そこではタイムマシーン3号・関太さん、サバンナ・高橋茂雄さん、鬼越トマホーク・金ちゃんさん、マユリカ・中谷翔平さん、空気階段・鈴木もぐらさん、チャンス大城さんといった芸人の方々が、自身のCPAP体験について語っています。
皆さん睡眠時無呼吸症候群と診断され、実際にCPAPを愛用していることで知られます。
また、お笑いトリオ「安田大サーカス」のクロちゃんもテレビ番組でCPAP使用シーンが映り話題になりました。
他にも公言していないだけでCPAPユーザーのお笑い芸人や有名人は多数いると考えられます。
芸能人が「CPAPを付けたら人生が変わった」とテレビで語ることで、一般の方も治療に前向きになるきっかけになりますね。
実際にCPAPを使っている芸人さんたちは、「朝の目覚めがスッキリ」「仕事中の居眠りがなくなった」などメリットを口々に語っており、治療の大切さを発信してくれています。
Q7. CPAPは体調を改善しますか?
A. はい、CPAP治療は睡眠の質を飛躍的に改善するため、総合的な体調を向上させる効果があります。
まず、CPAPを付けて眠ると睡眠中の低酸素や頻繁な覚醒がなくなるので、翌朝の疲労感や頭痛が軽減しスッキリ目覚められるようになります。
日中の強い眠気や集中力低下も改善し、仕事や勉強のパフォーマンスが向上したとの報告が多くあります。
さらに、CPAP治療を継続すると高血圧や糖尿病の管理がしやすくなる場合があります。
無呼吸による夜間の血圧上昇や交感神経亢進が抑えられるため、特に早朝高血圧が改善したり、降圧薬の効きが良くなるケースもあります。
また血中の酸素不足が解消されることで心臓や脳への負担が減り、長期的には心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)の予防につながると期待されています。
代謝面でも、CPAPによりインスリン抵抗性やコレステロール値の改善が報告されており、肥満やメタボリックシンドロームの是正に役立つ可能性があります【4】。
精神面では、熟睡できるようになることでうつ症状やイライラ感が軽減し、気分が前向きになったという患者さんもいます。
このように、CPAPは単にいびきや無呼吸を無くすだけでなく、全身のコンディションを底上げして生活の質(QOL)を高めてくれる治療と言えます。
ただし効果を実感するには正しく継続使用することが大前提です。
使用初期に違和感があっても工夫を凝らしながら毎晩使い続ければ、多くの方が「体調が見違えるほど良くなった」と感じることでしょう。
Q8. CPAPは体重が増える?
A. 場合によってはCPAP治療開始後に体重が増加しやすくなる人もいます【4】。
前述した通り、CPAP導入によって睡眠中の基礎代謝が低下するケースがあり(治療前は無呼吸に抗うためエネルギーを消耗していたのが治療後は楽になるため)、その分エネルギー収支がプラスに傾きやすくなるためです【4】。
特に食生活が従来通りだと、余剰エネルギー分だけ徐々に体重が増えてしまうことがあります。
また、CPAPで体調が良くなった安心感からつい食べ過ぎてしまい、結果として太ってしまうケースもあります。
実際、京都大学の研究ではCPAP治療を3か月継続したSAS患者のうち、多くで基礎代謝が5%程度低下し、総摂取カロリーが増加する傾向が示されました【4】。
その結果、食生活を改善できなかった群では体重が増加した人が多かったのに対し、食生活を見直した群では体重増加が防がれていたという報告があります【4】。
このことから、CPAP治療中に体重が増えるかどうかは本人の生活習慣次第と言えます。
決して「CPAPそのものが太る原因」ではありませんが、治療による環境変化に合わせて摂取カロリーや運動量を調整しないと太りやすくなる可能性があるのです。
したがって、CPAPを始めたら今まで以上に食習慣・運動習慣に気を配り、体重管理に努めることが大切です。
そうすればCPAPの恩恵をフルに活かしつつ、体重増加を防ぐどころか減量へと繋げていくことも十分可能です。
Q9. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は痩せたらどうなる?
A. 肥満が原因であるタイプの睡眠時無呼吸症候群であれば、痩せることで症状が大幅に改善する可能性があります。
実際、肥満度(BMI)を適正範囲まで下げることができれば、無呼吸の回数が劇的に減ってCPAPなどの治療が不要になるケースもあります【4】。
特に軽症~中等症のSAS患者では、減量のみで正常範囲までAHIが改善し「完治」に近い状態になる例もあります。
ただし、痩せても全員が必ずしも無呼吸症候群を卒業できるわけではありません。
例えば骨格的な問題(下顎の小ささ、鼻中隔のゆがみ等)や扁桃肥大などがある場合、標準体重になっても一定の無呼吸が残存することがあります。
そのため減量後も睡眠検査で無呼吸の程度を確認し、必要ならCPAPやマウスピース等の治療を継続することになります。
重要なのは、痩せることでSASが確実に良くなる方向に向かうという点です。
治らないまでも重症度が下がれば合併症リスクも減りますし、治療機器の依存度も下げられる可能性があります。
実際、SAS治療のガイドラインでも肥満患者への減量指導は標準治療の一つです【5】。
痩せることはSASそのものだけでなく、高血圧・糖尿病など関連する健康問題もまとめて改善するチャンスです。
したがって、SASと診断された方で肥満がある場合は、CPAP等で症状を抑えつつ計画的な減量に取り組むことを強くおすすめします。
それによって将来的に「痩せたらSASも治った」と言える状態を目指せるでしょう。
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予防
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合併症
症状
原因
傾向
疑い
引用文献
[1] National Heart, Lung, and Blood Institute. “Sleep Apnea – Causes and Risk Factors.”(アメリカ国立心肺血液研究所, 2025年更新)
[2] Sleep Foundation. “How Weight Affects Sleep Apnea.” (Updated July 15, 2025)
[3] Harsch IA, et al. “Leptin and ghrelin levels in patients with obstructive sleep apnoea: effect of CPAP treatment.” Eur Respir J. 2003;22(2):251-7.
[4] Tachikawa R, et al. “Changes in energy metabolism after continuous positive airway pressure for obstructive sleep apnea.” Am J Respir Crit Care Med. 2016;194(6):729-738.
[5] 日本呼吸器学会 『睡眠時無呼吸症候群(SAS)診療ガイドライン2020』 公益社団法人日本呼吸器学会, 2020年.
[6] Yahooニュース 「『アメトーークCLUB』“シーパップ芸人”睡眠時の無呼吸に悩む芸人たちが魅力を語る」(2025年7月13日)