近年、「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)」という病名を耳にする機会が増えています。

 

夜間に何度も呼吸が止まるため、日中の過度な眠気や集中力の低下、さらに高血圧や心血管疾患など多くの合併症を引き起こす可能性がある疾患です。

 

国内でも推定患者数は数百万人規模とされ、実は決して珍しい病気ではありません[1]。

 

一方、呼吸が浅くなる「肺胞低換気症候群」という稀少疾患が指定難病に分類されていますが、これもまた睡眠時の呼吸障害と深い関係を持つ病態です。

 

本記事では、SASの基礎知識や難病指定との関係、特に肺胞低換気症候群との関連を中心に、最新の治療法まで包括的に解説します。

 

専門医がエビデンスに基づきながら分かりやすく要点をまとめていますので、SASが疑われる方や、その治療法を検討している方の参考になれば幸いです。

 

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?基礎知識をおさらい

定義と分類

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に10秒以上の呼吸停止や呼吸低下(低呼吸)が繰り返される疾患です。

SASの有無や重症度は、1時間あたりの無呼吸・低呼吸発生回数(無呼吸低呼吸指数:AHI)で判定されるのが一般的で、AHIが5回以上でSAS、中等症は15回以上、重症は30回以上と分類されます[1][2]。

 

SASには主に2つのタイプがあります。

1)閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea:OSA)
 睡眠中に上気道(鼻や咽頭部)が物理的に狭くなる、またはふさがることで生じます。いびきを伴いやすく、肥満や扁桃肥大、下顎の後退などによる解剖学的狭窄が主な原因です。SASの大部分を占めます。

2)中枢性睡眠時無呼吸(Central Sleep Apnea:CSA)
 脳の呼吸中枢が「呼吸せよ」という指令を出さなくなることで発生します。心不全や脳の器質的疾患、あるいは特定の薬剤の影響などによって起こり得る病態です。OSAよりは頻度が少ないものの、重度の基礎疾患を背景に生じることがあります[3]。

 

症状と潜在患者数

SASの代表的な症状として、夜間のいびき・無呼吸、日中の強い眠気、起床時の頭痛、夜間頻尿、熟睡感の欠如などが挙げられます。

とくにいびきや無呼吸は家族など周囲に指摘されて気づくことが多く、本人には無意識の場合が多いのが特徴です。

 

SASは決して珍しくはありません。

国内では中高年男性の約2割、女性でも数%が中等度以上のSASを有するという報告があり、日本全体の潜在患者数は数百万~数百万人規模とも推定されます[1]。

放置すれば高血圧、糖尿病、心疾患、脳卒中などの合併症リスクが上昇し、生活の質や社会生活にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。

近年はSASに伴う交通事故のリスク増大や、生産性の低下なども問題視されており、早期の発見と治療が重要とされています[2]。

 

難病指定とは?睡眠時無呼吸症候群(SAS)は該当する?

指定難病の定義

日本における「指定難病」は、厚生労働省が定める一定の基準を満たした希少疾患で、医療費助成などの公的支援を受けられる対象疾患のことを指します。

難病全体の定義としては、原因不明で治療法が未確立、長期的な療養が必要—といった特徴を持つものが含まれますが、そのうちでも国内患者数が一定数以下(人口の0.1%程度以下)で、客観的な診断基準や重症度分類が確立しているものが「指定難病」に分類されます[4]。

現在、300を超える疾患が指定難病に選定されており、患者さんは所定の要件を満たすことで医療費の助成が受けられる仕組みです[5]。

 

一般的なSASは指定難病に含まれない

では、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は指定難病に該当するのでしょうか?

結論からいえば、一般的なSAS(OSAや多くのCSA)は指定難病には含まれていません

国内に多くの潜在患者が存在し、一定程度の治療法(後述のCPAP療法など)が確立されているため、難病の条件である「希少性」「原因不明」「有効な治療法の欠如」には当てはまりません。

そのため、公的医療費助成を要する指定難病には区分されていないのです。

 

もっとも、「睡眠中の呼吸障害」という大きなくくりの中には、指定難病に該当する病態も存在します。

その代表例が「肺胞低換気症候群」と呼ばれる疾患群で、重症肥満低換気症候群(OHS)や中枢性肺胞低換気症候群(CCHSなど)を含む病態が、稀少性や重症度の観点から指定難病に認定されています[3]。

 

睡眠時無呼吸症候群(SAS)と関係する指定難病「肺胞低換気症候群」とは?

肺胞低換気症候群の定義・分類

肺胞低換気症候群は、睡眠中に換気(空気の出入り)が極端に低下して、二酸化炭素(CO₂)が蓄積(高CO₂血症)する病態です。

生まれつきの遺伝子変異に伴う先天性中枢性低換気症候群(CCHS)や、原因不明の特発性中枢性低換気症候群、肥満による重症肥満低換気症候群(OHS)など、いくつかのタイプに大別されます[3]。以下に代表的な病型を挙げます。

 

1)先天性中枢性肺胞低換気症候群(CCHS)
 遺伝子(PHOX2Bなど)の変異が原因となり、出生時から脳の呼吸中枢が機能不全を起こす極めて稀少な疾患です。別名「オンディーヌの呪い」とも呼ばれ、新生児期から人工呼吸管理が必要になることもあります。

2)特発性中枢性肺胞低換気症候群
 中枢神経系に目立った器質的異常がないにもかかわらず、後天的に呼吸調節障害が生じる病型です。原因が明確ではなく、睡眠中の低換気(高CO₂血症)が著しいため、難治性の場合は生命に関わります。

3)重症肥満低換気症候群(Obesity Hypoventilation Syndrome: OHS)
 高度肥満により、呼吸に必要な筋肉や胸郭の動きが制限されるうえ、呼吸中枢の感受性も低下しやすいことで肺胞換気が極度に低下する病態です。OHSの患者の多くが、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を合併すると報告されています[3]。つまり「肥満に伴う無呼吸」と「低換気」が重複した状態であり、慢性的に高CO₂血症と低酸素血症を呈するケースが少なくありません。

 

病態とリスク

肺胞低換気症候群は、単に「呼吸が止まる」だけでなく「呼吸が浅い」状態が顕著であることが特徴です。

SASの方でも無呼吸発作中は換気が低下しますが、肺胞低換気症候群では全体を通して極度の換気不足が生じるため、重度の高CO₂血症と低酸素血症を招きやすくなります。

 

こうした病態が持続すると、肺高血圧や右心不全を含む重篤な合併症のリスクが高まり、場合によっては昼間もCO₂が高いままになる(慢性化)ことがあります。

特にOHSの場合は、肥満を改善しない限り病態が進行しやすく、結果として生命予後にも大きな影響を及ぼします[3]。

このように、希少性と重症度の高さから、肺胞低換気症候群の多くの病型が指定難病として認定されています。

 

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睡眠時無呼吸症候群の治療方法

1. 生活習慣の改善

SASの治療において第一に重視されるのは、体重管理をはじめとする生活習慣の見直しです。

肥満は閉塞性SASの最大の危険因子であり、5~10%程度の減量でも症状が大幅に改善する例があります[1][6]。

また、就寝前の飲酒や喫煙は気道や呼吸中枢に悪影響を及ぼし、無呼吸を悪化させることが知られています。

鼻炎や鼻づまりがある場合には、鼻洗浄などで鼻通りを良くするなど、小さな工夫でもSAS症状の緩和につながることがあります。

 

2. CPAP(持続陽圧呼吸)療法

中等症以上の閉塞性SASで代表的かつ有効な治療法が、CPAP(シーパップ)療法です[2][6]。

就寝時に専用のマスクを装着し、一定の陽圧をかけた空気を送り込み続けることで、上気道が塞がるのを防ぎます。

気道の「空気の添え木」のような役割を果たし、無呼吸やいびきを劇的に抑制できるため、日中の眠気や合併症リスクを軽減する効果が期待できます。

 

唯一の難点は、マスクやホースを毎晩使用し続ける必要がある点です。

マスクの装着感や空気の送り込みによる不快感、肌トラブルなどが起こる場合もありますが、機器は年々改良が進み、軽量・静音化やリモートモニタリング機能などサポート環境が整備されつつあります。

医療保険も適用されるため、継続的にフォローアップを受けながら使用すると良いでしょう。

 

3. マウスピース(口腔内装置)療法

軽症~中等症のOSA、あるいはCPAPが苦手な患者さんには、歯科で作成するマウスピース(口腔内装置)を就寝時に装着する治療があります[2]。

下顎を前に突き出す構造になっており、舌根が喉へ落ち込むのを防いで気道を広く保つ仕組みです。

個人の顎関節や歯列に合わせてオーダーメイドで作製するため、効果には個人差がありますが、正しく適応されればいびきやAHIの改善が得られるケースも多く報告されています。

 

4. 外科的治療(手術)

扁桃肥大や顎の骨格構造など、解剖学的に明らかな原因がある場合、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)など気道を広げる手術を検討する場合があります[7]。

ただし、手術には一定の侵襲や合併症リスクが伴い、術後の経過や長期的な効果にも個人差があります。

小児のSASでは扁桃摘出やアデノイド切除により著しく改善する例が多い一方、成人例では根治が難しく再発リスクもあるため、CPAPなどの保存的治療を優先するのが一般的です。

 

5. 舌下神経刺激療法

近年、CPAP以外の新たな治療アプローチとして注目されているのが、舌下神経刺激療法(Hypoglossal Nerve Stimulation)です[8]。

鎖骨下にペースメーカー様の装置を埋め込み、睡眠中に舌下神経を電気刺激することで舌筋を前方へ引き寄せ、気道閉塞を防ぎます。

CPAPをどうしても継続できない中等症~重症OSAの患者が対象になるケースが多く、欧米を中心に導入例が増加しています。

日本でも保険適用が始まり、適応基準を満たす患者には新たな選択肢となってきました。

 

肺胞低換気症候群の治療

一方、指定難病である肺胞低換気症候群(OHSや特発性中枢性低換気症候群など)では、非侵襲的陽圧換気(NPPV)療法が重要な役割を果たします[3][5]。

 

CPAPと同様にマスクで気道に空気を送りますが、より換気を補助する機能(BiPAPなど)を備えている装置を用いることで、浅い呼吸を強制的にサポートします。

重症のケースでは、日中も高CO₂血症が続くため、在宅人工呼吸管理が必要となる場合もあります。

特に肥満低換気症候群(OHS)では、体重管理を徹底しながらNPPVで夜間の低換気を補っていくことで、将来的に心不全や呼吸不全へ進行するリスクを下げることが可能です。

先天性中枢性低換気症候群(CCHS)の場合は、新生児期から気管切開下の人工呼吸管理が必要になるケースもあるなど、各タイプで治療戦略は大きく異なります。

 

睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合はオンライン診療へ

もし「自分はいびきをよくかく」「家族に呼吸停止を指摘された」「日中に異常な眠気がある」「朝起きたときに頭痛や疲労感が強い」などの症状があれば、早めに医療機関へ相談するのがおすすめです。

SASを放置すると、高血圧や糖尿病、心血管疾患、脳卒中などの発症リスクが上昇し、重大な健康問題につながる可能性があります。

 

しかしながら、「忙しくて通院できない」「一晩入院検査が必要なのでは?」といった不安やハードルを感じる方も少なくありません。

近年は医療のデジタル化が進み、オンライン診療を活用して初期相談や問診を受けられる体制が整っています。

 

オンライン診療であれば、自宅や職場など遠方からでも気軽に専門医に相談でき、必要に応じて簡易検査機器を自宅で使用するなどのステップにつなげることが可能です。

疑わしい症状があれば、迷わず専門医の診断を受け、早期に対策を行いましょう。

 

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引用論文・参考資料

[1] 日本睡眠学会編. 「睡眠障害の診断と治療ガイドライン 2017」, 医学書院.
[2] American Academy of Sleep Medicine. “International Classification of Sleep Disorders, 3rd Edition (ICSD-3).” Darien, IL: AASM; 2014.
[3] American Thoracic Society. “Statement on home care for patients with respiratory disorders.” Am J Respir Crit Care Med. 2005;171(12):1443-64.
[4] 厚生労働省. 「難病法及び子ども・子育て支援法の一部を改正する法律(平成26年法律第50号)」.
[5] 日本呼吸器学会. 「慢性呼吸不全診療ガイドライン」. Medical View社, 2021.
[6] Peppard PE, Young T, Palta M, Skatrud J. “Prospective Study of the Association between Sleep-Disordered Breathing and Hypertension.” N Engl J Med. 2000;342(19):1378-84.
[7] Fujita S. “Uvulopalatopharyngoplasty: long-term results.” Otolaryngol Head Neck Surg. 1984;92(5):653-8.
[8] Strollo PJ Jr, Soose RJ, Maurer JT, et al. “Upper-Airway Stimulation for Obstructive Sleep Apnea.” N Engl J Med. 2014;370(2):139-49.

 

睡眠時無呼吸症候群をもっと詳しく

睡眠時無呼吸症候群(SAS)について、さらに詳しく知りたい方は各記事をご確認ください。

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