持続陽圧呼吸(CPAP)療法がSAS治療の一般的な第一選択ですが、マウスピース(口腔内装置:Mandibular Advancement Device, MAD)による治療も重要な選択肢の一つです。

 

マウスピース治療は下顎を前方に固定することで気道を広げ、就寝中の舌の沈下を防いでいびきや無呼吸を軽減する仕組みです[1][2]。

しかし患者さんの中には、「マウスピース治療は本当に効果があるのか?」「市販のマウスピースではだめなのか?」と疑問を持つ方も多いでしょう。

 

本記事では、国内外のガイドラインおよびランダム化比較試験(RCT)などの医学的エビデンスをもとに、SASに対するマウスピース治療の効果やメリット・デメリットを詳しく解説します。

 

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)のマウスピース治療は効果ある?

結論から言えば、適切に作製・調整された口腔内装置(MAD)はSASの症状改善に一定の効果があります

特に軽症〜中等症の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者では、有効な治療オプションとなり得ます[3]。

 

ガイドラインでも、軽度〜中等度のOSA患者にはマウスピース治療を第一選択肢の一つとして推奨しており、重症OSA患者に対してもCPAPが耐えられない場合の代替療法として位置付けられています[3][4]。

以下に、エビデンスに基づく具体的な効果を紹介します。

 

無呼吸低呼吸指数(AHI)の改善

複数のランダム化比較試験(RCT)やメタ解析の結果、マウスピース治療によってAHIは有意に低下することが示されています[5]。

例えば、メタ解析では口腔内装置によりAHIが平均で約9回/時減少したとの報告があります[5]。

ただし、AHI低減効果の程度はCPAPには及ばないのが一般的です。直接比較試験では、CPAPのほうがマウスピースより平均で約7回/時程度AHIを多く下げたというデータもあります[5]。

したがって、重症のSAS(AHIが高い症例)ではマウスピースのみで無呼吸を完全に抑えることは難しく、まずCPAPが推奨される理由となっています。

 

日中の眠気など症状の改善:

マウスピース治療でも日中の強い眠気の改善効果はCPAPと同等レベルで得られることが多いです。

実際、いくつかのRCTではEpworth眠気スケール(ESS)による眠気スコア改善度において、CPAP群とMAD群の間に有意差が認められない結果が報告されています[1][5]。

国内のガイドラインでも、「メタ解析の結果、CPAPと口腔内装置の間でESSの改善度に明瞭な差はみられない」と記載されています[1]。

これは、軽症〜中等症レベルの患者が対象となった研究が多いことも一因ですが、適切な患者であればマウスピースでも主観的な症状改善は十分期待できることを示しています。

 

治療成功率

マウスピース治療がどの程度「成功」するか(AHIを正常化できるか)は、患者の重症度や定義によって幅があります。

一般に、軽〜中等症の患者では半数以上で著明なAHI改善が得られますが、重症になるほど成功率は低下します。

文献によれば、治療後AHI<10を達成できる割合は口腔内装置で30〜85%と報告されており[6]、この幅は患者の重症度によって差があります。

例えば、ある資料では「マウスピース療法で約70%の患者はAHIが半減以上改善し、約3割の患者では無呼吸が完全に消失(AHI正常化)」といったデータも示されています[2]。

一方で約1/3の患者では十分な効果が得られないケースもあるため[2]、全員に有効なわけではない点には注意が必要です。

そのため、効果判定のための睡眠検査によるフォローアップが推奨されます[4]。

 

以上より、医療機関で適切に調整されたマウスピース治療は、特に軽度〜中等度のSAS患者に対して有効性が確認されています

重症例でもCPAPがどうしても使用できない場合には試みる価値がありますが、CPAPほど無呼吸を完全に抑制できない可能性が高いことを踏まえて治療方針を決定する必要があります[5]。

 

市販のマウスピースでは効果なし?

ドラッグストアやインターネットで購入できる市販のマウスピース(いわゆるスリープスプリントの簡易版や「ボイル&バイト」タイプ)を使用してみようと考える方もいるかもしれません。

しかし、結論から言えば、市販品でSASを十分に治療できる根拠は乏しく、医療機関で処方されるカスタムメイドのものを使用すべきです。

その理由をエビデンスに基づき解説します。

 

フィット感・調整機能の違い

医療機関で作製されるマウスピース(口腔内装置)は、歯科医師が患者個人の歯型を取って作るオーダーメイド品です。

さらに多くの場合、下顎の前方位置を微調整できる調整可能タイプが処方されます。

これに対し、市販のマウスピースは既製品であり、熱湯で軟化させて歯型をとる程度の簡易なフィッティングしかできません[2]。

ガイドラインでも「OSA患者に口腔内装置治療を行う場合、市販の既製品ではなく、歯科医師によるカスタムメイドで調整可能な装置を使用すべき」と明確に推奨しています[4]。

すなわち、一人ひとりの口腔に合わせた精密な調整が治療効果に不可欠なのです。

 

 

市販品の有効性エビデンス

市販の簡易マウスピースのSASに対する有効性を検証した信頼性の高いRCTはほとんど存在しません。

むしろ、専門家の報告では「市販の熱湯で軟化させて歯型をとるようなマウスピースは、装着感が悪く不快なうえ、いびきを軽減することはあってもOSA自体を十分改善するものではない」と指摘されています[2]。

あるレビュー論文でも、「市販のプリフェブリケート(既製)装置は、これまで開発されたものでは効果や快適性が著しく劣る」と結論づけられています[3]。

要するに、市販品では適切な下顎前方移動量の確保や副作用管理が困難であり、治療効果に関する十分な科学的根拠がありません

 

 

専門的フィッティングの重要性

マウスピース治療を成功させるには、歯科での適切なフィッティングと段階的な調整が不可欠です。

専門の歯科医師は下顎の前方移動量を患者ごとに決定し、効果と副作用を見ながら微調整を行います[1]。

その上で睡眠検査による効果確認を経て初めて治療が完成します[1]。

市販品ではこうしたプロセスが一切行えないため、効果が不十分であったり、逆に顎関節に痛みを生じても対処できないリスクがあります。

 

 

以上の点から、市販のマウスピースでSASを治療することは推奨できません

実際、専門医も「市販の簡易デバイスは誤った安心感を与える可能性があり、睡眠時無呼吸の治療には通常推奨されない」と述べています[2]。

SASの疑いがある場合は、自己判断で市販品に手を出すのではなく、必ず医療機関で睡眠検査と診断を受け、適切な医療用マウスピースの処方を受けるようにしてください。

 

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)のマウスピース治療のメリット

CPAPと比較した場合、マウスピース治療には以下のような**利点(メリット)**が挙げられます。

装置がコンパクトで携帯性に優れる

マウスピースは小型で軽量なため、旅行や出張時にも持ち運びが容易です。

CPAPのように機械本体や電源を必要としないため、場所を選ばず使用できる手軽さがあります。

就寝中も鼻マスクやホースがない分、身体的な拘束感が少ないことも利点です。

 

動作音がなく静か

CPAPは装置からの送風音やマスクの漏れ音が発生しますが、マウスピースはただ歯にはめるだけなので騒音がありません

同室者や家族の睡眠を邪魔しにくい点で、マウスピースは静音性に優れた治療と言えます。

 

装着の快適性と患者満足度

個人差はありますが、マウスピースの方がCPAPより違和感が少なく快適だと感じる患者さんは多いです。

特に閉所感や鼻への不快感がないため、治療の受容性(アクセプタンス)が高い傾向があります[7]。

実際、CPAPとマウスピースの両方を試した研究では、患者の多くがマウスピース治療の方を好むと自己申告しています[7]。

このように主観的な満足度が高いため、治療へのモチベーション維持にもつながります。

 

 

使用継続のしやすさ(コンプライアンスの良さ)

マウスピースは就寝中に装着するだけで済み、CPAPのように機器の操作や手入れも比較的簡便です。

その結果、実際の使用時間や日数がCPAPより長くなる傾向も報告されています[7]。

ある研究では、マウスピースの自己申告使用時間はCPAPより長いとの結果が出ており、高い治療コンプライアンス(継続使用率)が長期的な症状改善に寄与していると考えられています[7]。

コンプライアンスが高いため、実臨床での効果(有効性)はCPAPに匹敵する場合もあります[7]。

 

 

軽症・中等症SASには十分な効果

前述の通り、軽度〜中等度のSAS患者であれば、マウスピース単独で症状改善や生活の質(QOL)向上に大きな効果を得られるケースが多い[1]。

日中の眠気やいびきの軽減といった臨床転帰はCPAPと同等に改善するとの報告もあり[1]、これらの患者層にとってマウスピース治療は有力な第一選択肢となりえます。

実際、米国の専門学会も「CPAPを忍容できない患者やCPAP以外の治療を希望する患者には、口腔内装置による治療を検討すべき」と勧告しています[4]。

 

 

睡眠時無呼吸症候群(SAS)のマウスピース治療のデメリット

一方で、マウスピース治療には以下のような欠点や注意点(デメリット)も存在します。

これらを理解した上で、自身の症状や状況に合った治療法を選択することが大切です。

 

無呼吸抑制効果がCPAPより劣る

マウスピースは気道を広げることで無呼吸を減らしますが、気道を強制的に空気で開通させるCPAPほど確実にAHIを下げられるわけではありません

RCTの比較では、平均AHIの改善幅はCPAPの方が有意に大きいことが示されています[5]。

とくに重症SAS(AHIが高い症例)では、マウスピースのみでは無呼吸低呼吸を十分に抑制できない場合が多いのが現状です[1][6]。

重症患者ではまずCPAPを検討し、どうしても難しい場合にマウスピースを併用・代替する、といった対応が必要になります。

また、マウスピース使用中も残存する無呼吸がある程度生じうるため、酸素低下や睡眠分断が完全には是正されない可能性もあります。

 

顎関節や歯列への副作用

マウスピース装着に伴う口腔・顎への物理的な影響にも注意が必要です。

使用開始直後は、顎関節の違和感や痛み、歯の圧迫感、唾液の増加などの副作用が見られることがあります[2]。

これらの初期副作用は多くの場合、数週間以内に軽減するとされています[2]。

しかし、長期的に見ると歯の移動や咬み合わせの変化(噛み合わせがずれる)が起こるケースも報告されています[2]。

実際、数年単位の使用で上下の前歯の噛み合わせが変化したり、若干の出っ歯傾向になるといった歯列への影響が生じる可能性があります。

このため、定期的に歯科でフォローアップを受け、噛み合わせのチェックや装置の調整を行うことが推奨されます[2][4]。

また、顎関節症をもともと持つ方では症状が悪化するリスクもあるため、事前に歯科医と相談し注意深く経過をみる必要があります。

 

治療効果や継続率に個人差が大きい

マウスピース治療は誰にでも劇的な効果が得られるわけではなく、効果が不十分な例や使用中止に至る例も一定数存在します。

前述したように約30%の患者ではAHIの十分な改善が得られないとも報告されており[2]、そうした場合には他の治療(CPAPや外科的治療)への切り替えが検討されます。

また、装置の不快感や効果不十分さから途中で使用をやめてしまう患者もいます。

実際、ある研究では治療開始後最初の2ヶ月で約19%の患者がマウスピースの使用を中断したとのデータがあります[7]。

さらに長期的に見ると、当初80%近くに達していた治療成功率(AHIの有意な改善が得られていた患者の割合)が、5年後には約52%まで低下したとの報告もあります[6]。

この低下は、一部患者で症状の進行や体重増加などによってマウスピースの効果が相対的に不足してきたことや、途中で他の治療に移行したケースがあるためと考えられます[6]。

 

以上のように、マウスピース治療の有効性と継続率には個人差が大きく、経時的な再評価が必要です。

そのため、治療開始後も定期的な睡眠検査で効果を確認し、必要に応じて治療戦略の見直しを行うことが望ましいでしょう[4]。

 

 

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)のマウスピース治療は保険適用?

日本国内では、一定の条件を満たせば睡眠時無呼吸症候群に対するマウスピース治療は健康保険の適用が可能です。

適用の条件と費用の目安について解説します。

 

保険適用の条件

保険でマウスピース(スリープスプリント)を作製するには、睡眠時無呼吸症候群であるという医師の診断が確定していることが必要です[1]。

具体的には、内科や呼吸器科・耳鼻科など専門医療機関で終夜睡眠検査などの結果からSASと診断され、その診断書・紹介状を歯科に持参することで歯科での装置作製が保険適用となります[1]。

裏を返せば、単なるいびき症(SASではない)の場合や、自分でSASかもと思っているだけでは保険は使えず、まずは医科で正式にSASと診断される必要があります。

 

また、保険適用となる装置の種類は決められており、現在日本の保険診療で認められているのは上下顎一体型の口腔内装置です[1](上下が分離していて前後の微調整が可能なタイプは保険外扱い)。

適用に年齢制限はありませんが、通常自分の歯が20本以上残存している成人であることが望ましいとされています[1](歯が少なかったり小児の場合は適応外となることがあります)。

 

費用の目安

保険適用でマウスピースを作製した場合、自己負担3割の方で**約1万円前後(1~1.5万円程度)**の費用となることが多いです[1]。

装置そのものの技術料はおよそ3~5万円ほどで、残りを保険が負担する形です。比較的安価に作れるため、「いびきが強い軽症の方やCPAPが不要な程度の中等症の方」であればまず保険でマウスピース治療を試みる価値があります。

 

一方、いびき症(SASと診断されない場合)でマウスピースを作りたい場合や、上下分離型の調整機能付きマウスピースを希望する場合は自由診療(自費)となります。

自由診療では歯科医院ごとに費用設定が異なりますが、一般的な上下分離型の高度な装置では10万円以上の費用がかかるケースもあります[1]。

簡易的な一体型装置を自費で作る場合は数万円(おおむね3~5万円程度)ですが[1]、保険適用と比べると患者負担は大きくなります。

 

 

保険適用を受けるには多少手間がかかりますが、まずは医科で正確な診断を受け、その結果をもとに歯科でオーダーメイドの装置を作製するというプロセス自体が、安全で効果的な治療のために重要です。

費用面でも保険適用であれば比較的安価に済むため、SASと診断された方は主治医にマウスピース治療の適否を相談してみるとよいでしょう。

 

睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合はオンライン診療へ

SASの症状に心当たりがある方(例えば睡眠中の大きないびきや無呼吸、日中の強い眠気など)は、早めに専門医の診断と適切な治療を受けることが大切です。

放置すると高血圧や心疾患、脳卒中など重大な健康リスクにつながる可能性があります。

 

森下駅前クリニックでは、忙しい方でも利用しやすいオンライン診療を通じてSASの相談・診察・検査を受けることが可能です。

自宅にいながら医師の問診を受けたり、必要に応じて簡易検査機器をご自宅にお送りしてSASのスクリーニング検査を行うこともできます。

 

公式ページ(https://morishitaekimae.com/online/)から24時間いつでも予約が可能です。

遠方の方や来院が難しい方でも、オンラインで専門医と繋がることで早期診断・早期治療に踏み出すことができます。

 

早期に適切な対応をとることで、将来的な合併症リスクを減らし、快適な日常生活を取り戻すことが期待できます。

 

少しでもSASの疑いがあれば、ぜひ一度オンライン診療を活用して専門医にご相談ください。

 

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引用文献

[1] 日本呼吸器学会『睡眠時無呼吸症候群(SAS)診療ガイドライン2020』2020年
[2] Oral Appliances for Sleep Apnea: Types, Benefits, Risks | SleepApnea.org
[3] Dort L, Remmers J. A combination appliance for obstructive sleep apnea: the effectiveness of mandibular advancement and tongue retention. J Clin Sleep Med. 2012;8(3):265–269.
[4] Ramar K, et al. Clinical practice guideline for the treatment of obstructive sleep apnea and snoring with oral appliance therapy: an update for 2015. J Clin Sleep Med. 2015;11(7):773–827.
[5] Sharples LD, et al. Meta-analysis of randomised controlled trials of oral mandibular advancement devices and continuous positive airway pressure for obstructive sleep apnoea-hypopnoea. Sleep Med Rev. 2016;27:108–124.
[6] Vecchierini MF, et al. Mandibular advancement device use in obstructive sleep apnea: ORCADES study 5-year follow-up data. J Clin Sleep Med. 2021;17(8):1695–1705.
[7] Sutherland K, et al. Treatment usage patterns of oral appliances for obstructive sleep apnea over the first 60 days: a cluster analysis. J Clin Sleep Med. 2021;17(9):1785–1792.

 

睡眠時無呼吸症候群をもっと詳しく

睡眠時無呼吸症候群(SAS)について、さらに詳しく知りたい方は各記事をご確認ください。

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