睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)は、睡眠中に呼吸が何度も止まる状態を指し、いびきや日中の強い眠気などを引き起こす病気です。

 

単なるいびきと思われがちですが、SASは全身の健康に大きく影響します。

睡眠中の低酸素状態と頻回な覚醒反応によって交感神経が活発化し、血圧や心拍数が急上昇するため、さまざまな臓器に負担をかけるのです[12][12]。

 

近年の研究で、SASが放置されると高血圧や心臓病、脳卒中など命に関わる病気のリスクを高めることが明らかになっています[3][11]。

 

さらに、代謝やホルモンバランスの乱れを通じて糖尿病やメタボリックシンドロームの発症にも関与します[2][6]。

子どもの場合は成長障害につながることも報告されています[7][7]。

 

本記事では、SASが引き起こす17のリスクについて、高いエビデンスに基づいてわかりやすく解説します。

 

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高血圧

SASは高血圧(高い血圧)の重要な原因の一つです。

睡眠中の低酸素と繰り返す覚醒反応により交感神経が刺激され、血管が収縮して血圧が上昇します[12]。

その結果、SASのある人はない人に比べて高血圧を発症しやすく、約2倍もリスクが高いとの報告があります[3]。

特に、治療に反応しにくい難治性高血圧の患者さんでは、実に80%以上にSASが隠れていたとの報告もあります[3]。

SASを適切に治療すると夜間の血圧が下がり、高血圧の管理が改善するケースも多くみられます[12]。

高血圧がなかなか改善しない場合、背景にSASがないか検討することが重要です。

SASは高血圧の二次的原因として循環器のガイドラインでも挙げられており、早期発見・治療が高血圧管理の一部とされています[12]。

 

糖尿病

SASは2型糖尿病のリスク因子でもあります。

夜間の低酸素状態がインスリンの働きを阻害し、血糖値を上昇させやすくするためです。

実際、重度のSASでは2型糖尿病の発症リスクがおよそ2倍に高まることがメタ分析で示されています[2]。

この研究では、軽度の睡眠時無呼吸でも糖尿病発症リスクが有意に増加し、無呼吸低呼吸指数(AHI)が高いほどリスクが段階的に上昇する「ドーズレスポンス関係(量反応関係)」が確認されました[2]。

つまり、いびきや無呼吸がひどい人ほど将来的に糖尿病になりやすい傾向があります。

さらにSAS患者ではインスリン抵抗性(インスリンの効きづらさ)がしばしば認められ、肥満やメタボリックシンドロームを介して血糖コントロールが悪化することもあります[6]。

SASの治療(CPAP療法)によってインスリン感受性が改善し、血糖値が下がったという報告もあり、糖尿病予防の観点からもSASの管理は重要です〔[2]〕。

 

心血管疾患(心筋梗塞・狭心症・心不全・不整脈など)

SASは心臓や血管の病気(心血管疾患)に深く関与します。

睡眠中の低酸素と血圧・心拍の急激な変動が、血管の動脈硬化を進行させ心臓に負担をかけるためです[12]。

事実、高血圧、心不全、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)、心房細動などの患者さんの40〜80%でSASが合併しているとの報告があります[3]。

特に中高年男性では、SASが冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)のリスクを高める関連が指摘されています[12]。

また、夜間の無呼吸発作により心臓のリズムが乱れ、不整脈(心房細動や徐脈発作など)が生じることも珍しくありません[12]。

SAS患者の約半数に何らかの不整脈がみられるとのデータもあります[12]。

さらに、SASと心不全はお互いに悪影響を及ぼし合う「双方向の関係」にあり、SASが心不全の予後を悪化させる可能性があります[3]。

しかし、適切なCPAP治療によって心血管イベントのリスクが低減することも報告されています[11]。

実際、重症SASの男性を10年間追跡した研究では、未治療のグループは心筋梗塞や脳卒中による死亡リスクが健常者の約3倍でしたが、CPAP治療を受けたグループではリスクが健常者と変わらない水準に抑えられました[11]。

このようにSASを治療することは心臓を守る上でも極めて重要です〔[3][4]〕。

 

脳卒中(脳血管疾患)

睡眠時無呼吸は脳卒中(脳梗塞や脳出血)とも深い関連があります。

SASによる夜間低酸素状態や血圧変動が脳血管を傷つけ、血栓ができやすくなるためです。

SASのある人は、ない人に比べて脳卒中を発症するリスクがおよそ2倍になることが大規模研究で示されています[5]。

米国で行われた有名な追跡研究では、他の危険因子(高血圧や糖尿病など)を調整しても、SAS患者は脳卒中または死亡のリスクが約1.97倍に高いと報告されました[5]。

特に重症のSAS(無呼吸低呼吸指数が高い場合)ほど脳卒中リスクが高く、重症SASでは約4倍になるとの報告もあります[5]。

また、脳卒中患者の中には発症前からSASを抱えていた人が多く、SASが脳卒中の一因になり得ると考えられます。

さらにSASを合併した脳卒中患者さんはリハビリの妨げになったり、再発リスクが高まる可能性も指摘されています。

幸い、CPAP治療などで夜間の低酸素状態を改善すれば脳への負担が軽減し、将来的な脳卒中予防につながる可能性があります。

いびきが強い方やSASが疑われる方は、脳卒中予防のためにも早めの検査と治療が勧められます〔[5]〕。

 

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドローム(いわゆる「メタボ」)とは、高血圧・高血糖・脂質異常症(中性脂肪高値やHDLコレステロール低値)・肥満(内臓脂肪)のうち複数が重なった状態を指します。

SASはこのメタボリックシンドロームとも密接に関係しています。SASの患者さんは夜間低酸素によりストレスホルモンが分泌され、インスリン抵抗性が増し、脂質代謝も乱れる傾向があります[6]。

そのためSASの患者さんの約半数がメタボリックシンドロームを合併しているとの報告があります[6]。

実際、529人のSAS患者を調べた研究では、51.2%がメタボリックシンドロームの診断基準を満たしており、無呼吸が重症なほどその割合が高くなることが示されました[6]。

SASとメタボはいずれも内臓脂肪の蓄積が原因にあるため、両者が併存しやすい「悪循環」が生じます[6]。

 

一方、SASを治療すると血圧・血糖のコントロールが改善し、メタボ指標が良くなるケースもあります。

こうした背景から、SASとメタボが合併した状態は特に心血管リスクが高いため、「シンドロームZ」と呼ばれることもあります[6](シンドロームX=メタボにSASが加わった概念)。

メタボリックシンドロームの方で睡眠時無呼吸が疑われる場合は、一度専門医に相談することをおすすめします〔[6]〕。

 

発育障害(小児の成長への影響)

子どもの睡眠時無呼吸は、身体の発育障害(成長不良)を引き起こすことがあります。

夜間の無呼吸により睡眠が分断されると、成長ホルモンの分泌が低下したり、食欲・代謝のバランスが崩れたりするためです。

実際、扁桃肥大などでSASを患っている子どもでは、同年齢の健康な子どもに比べて身長や体重が平均より低い「成長曲線の下限」に入る割合が有意に高いことが報告されています[7]。

 

ある研究では、SAS児の約14%が身長・体重が年齢相応より著しく低い状態であったのに対し、健康な対照では6%にとどまっていました[7]。

 

しかし朗報もあります。

原因となるアデノイドや扁桃の手術(アデノイド摘出術・扁桃摘出術)によりSASが改善すると、多くの子どもで成長の追いつき(キャッチアップ)が見られたのです[7]。

同研究では、治療1年後の追跡で低身長だった子の約67%が正常な身長範囲に追いつき、低体重だった子の約58%が体重成長の遅れを取り戻しました[7]。

このように、小児のSASは成長障害の原因となり得ますが、早期発見と適切な治療でその影響はリカバリー可能です。

お子さんの身長体重の伸びが悪く、いびきや寝汗・落ち着きのなさが見られる場合、睡眠時無呼吸症候群の検査を考慮してください〔[7]〕。

 

慢性腎臓病

睡眠時無呼吸は腎臓にも悪影響を与えます。

SASの低酸素状態や血圧上昇が腎臓の血管を傷つけ、腎機能の低下(慢性腎臓病:CKD)を進行させると考えられています。

近年の研究では、中等度以上のSASがあると腎臓病の進行リスクがおよそ2.5〜3倍に高まることが示されました[8]。

 

カナダの5つの睡眠医療センターで1,200人以上を調査した報告によれば、SASが重症な患者では慢性腎臓病の悪化リスクが有意に高く、他の腎臓病危険因子を調整しても重症SAS群の腎機能低下リスクは無呼吸のない人の約3倍でした[8]。

また、腎臓病患者さんの約40%にSASが見られるとの報告もあり[8]、SASと腎障害はお互いに関連している可能性があります。

実際に、夜間低酸素が続くと腎臓への血液供給が減り、腎臓が酸素不足状態になることが動物実験などで示唆されています[8]。

 

さらにSAS患者ではしばしば高血圧や糖尿病など腎臓に負担をかける要因も併存します。

こうした理由から、SASのある方は定期的に腎機能をチェックし、悪化傾向があれば専門医と連携して対策をとることが重要です〔[8]〕。

 

動脈硬化

睡眠時無呼吸は全身の動脈硬化を促進します。

無呼吸による酸素不足と睡眠分断は、血管の炎症や内皮機能障害を引き起こし、コレステロールの沈着を助長するためです[12]。

特に首の頸動脈など太い動脈の壁が厚く硬くなる「動脈硬化」の早期指標が、SAS患者では健常者より進んでいることが分かっています。

 

あるメタ分析研究では、SAS患者の頸動脈の内膜中膜厚(IMT)(動脈硬化の超音波指標)が健常者に比べて有意に厚く、SASが独立した動脈硬化促進因子であると結論づけられました[9]。

具体的には、SAS群は非SAS群に比べ頸動脈IMTが平均で約0.88の標準化差(SMD)高く、重症度が上がるほどIMTも増加する相関関係が認められています[9]。

 

さらに、SAS治療によりこの動脈硬化の進行が抑制できる可能性も報告されています[9]。

例えばCPAP療法を数ヶ月行ったところ、治療前と比べてIMTの進行が鈍化したとの研究結果もあります。

動脈硬化は放置すると心筋梗塞や脳梗塞につながるため、SASの治療は血管を守る上でも重要です。

特に中高年で動脈硬化リスクの高い方は、睡眠時無呼吸の有無を調べ適切な介入を行うことで、将来的な血管イベントを予防できる可能性があります〔[9]〕。

 

心臓突然死

睡眠時無呼吸は夜間の心臓突然死(夜間の急性心臓死)のリスクとも関連しています。

通常、心臓突然死(致死的な不整脈による心停止)は早朝から午前中に多く発生しますが、SAS患者では夜間(深夜から明け方)に集中することが知られています[10]。

さらにSASそのものが心臓突然死の全体リスクを高める可能性が指摘されてきました。

米国で1万人以上を長期間追跡した研究によれば、中等度以上のSAS(AHI>20)の人はSASのない人に比べて心臓突然死の発生率が有意に高いことが示されました[10]。

この研究では、平均5.3年の追跡期間中に142人が心臓突然死を起こしましたが、その予測因子として「AHIが20を超えること」や「夜間の最低酸素飽和度が78%未満まで低下すること」が挙げられています[10]。

特に夜間低酸素が深刻な場合、心臓突然死のリスクが約1.8倍に高まる(最低酸素飽和度<78%でリスク80%増)との報告です[10]。

これは低酸素によって致死性不整脈(心室細動や心停止)が誘発される可能性を示唆します。

幸い、CPAP療法などでSASを治療すれば夜間の酸素低下が改善し、こうしたリスクを下げられる可能性があります[10]。

実際、「パートナーが夜中に呼吸が止まる」といった明らかなSASの徴候がある場合、早めに治療することで大事な命を守ることにもつながる**のです〔[10]〕。

 

胃食道逆流症(GERD)

SASの患者さんでは胃食道逆流症(GERD)を合併することがしばしばあります。

横になると胃酸が食道に逆流しやすくなるうえ、無呼吸による胸腔内圧の変動が逆流を助長すると考えられています。

実際、SAS患者では胃酸逆流の症状を持つ人の割合が高く、ある研究ではSAS患者の62%にGERDが認められました[11]。

さらに、SASに対してCPAP治療を真面目に続けている患者さんは、治療していない人に比べて逆流症状が有意に改善したとの報告があります[11]。

これはCPAPによって睡眠中の胸圧変動が減り、胃酸の逆流が抑えられたためと考えられます。

逆に、重度のGERDがSASの症状(いびきや覚醒)を悪化させるとの指摘もあり、SASとGERDはお互いに影響し合う可能性があります[11]。

もっとも、一方で1,000例以上の大規模調査ではSASの重症度とGERD有病率に関連が見られなかったという結果もあり[11]、両者の関係は個人差が大きいようです。

いずれにせよ、SASを治療すると日中の眠気や睡眠の質が向上するケースもあるため、逆流症状があるSAS患者はGERD治療との併用で生活の質を高められる可能性があります〔[11]〕。

 

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非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)

非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)はお酒を飲まない人に生じる脂肪肝で、放置すると肝硬変や肝癌のリスクがあります。

SASはこのNAFLDの発症・進展リスクを高めることが分かってきました。SASの低酸素ストレスが肝臓に炎症を起こし、脂肪蓄積や線維化(肝硬変の元)を促進するためです[12]。

多くの研究結果をまとめた系統的レビューによれば、SAS患者はそうでない人に比べ脂肪肝(NAFLD)を有する確率が約2倍高く、さらに肝炎(NASH)や肝線維化のリスクも2倍前後に上昇することが示されました12]。

具体的には、SASがあると肝生検でNASHと診断されるオッズが約2.37倍、肝線維化のオッズが2.16倍にも上ります[12]。

驚くべきことに、これらの関連は年齢や肥満度を考慮しても有意であり、つまり肥満とは独立してSASそれ自体が肝臓にダメージを与えうるということです[12]。

実際、痩せた人でも重症SASがあると脂肪肝を発症しやすいケースがあります。幸い、SAS治療が肝臓に良い影響を及ぼす可能性も示唆されています。

CPAP治療により肝酵素(AST/ALT)が改善したり、肝臓の炎症マーカーが減少したとの報告もあります[12]。

NAFLDの患者さんで原因がはっきりしない場合、背景にSASが潜んでいないか確認することが推奨されます。

反対に、SASのある方は定期的に腹部エコーや血液検査で肝臓の状態をチェックし、脂肪肝の進行予防に努めることが大切です〔[12]〕。

 

周術期管理(手術時のリスク)

睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、手術の前後(周術期)に特有のリスクがあります。

麻酔や鎮静薬が気道をさらに狭くし無呼吸を悪化させたり、術後の痛み止め(特にオピオイド系鎮痛薬)が呼吸抑制を引き起こしやすいためです[13]。

その結果、SAS患者は手術後の呼吸合併症や心臓合併症の頻度が高いことが知られています[13]。

具体的には、術後に酸素が低下してしまったり、重篤な場合は呼吸停止や不整脈が起こるリスクが指摘されています。

多くの施設で術前にSASのスクリーニング(問診や簡易検査)を行い、高リスクと判定された場合には術中・術後に注意深いモニタリングを行う体制がとられています[13]。

例えば、全身麻酔の導入時には気道確保に熟練した麻酔科医があたり、術後は酸素投与や持続的気道陽圧法(CPAP)で無呼吸を防ぐなどの対策が推奨されます[13]。

また可能であれば、全身麻酔ではなく局所麻酔や神経ブロックを活用して麻酔薬の影響を減らす工夫もなされます[13]。

このように、SAS患者は手術そのものだけでなく周術期管理にも専門的配慮が必要です。

SASと診断されている方は、手術前の問診でその旨を必ず医療者に伝えましょう。

適切な周術期管理により、安全に手術を乗り切ることができます〔[13]〕。

 

認知症

睡眠時無呼吸は脳への影響から認知症(アルツハイマー型認知症や血管性認知症など)のリスクにも関与すると考えられています。

夜間低酸素や睡眠の質低下が長年続くことで、脳細胞がダメージを受けたり老廃物のクリアランス(脳のゴミ掃除機能)が落ちたりするためです。

実際、近年の大規模研究の統合解析において、睡眠時無呼吸のある人は将来認知症を発症するリスクが有意に高いと報告されました[14]。

11件のコホート研究をまとめたメタ分析では、SAS患者の認知症発症ハザード比が1.43(95%信頼区間1.26–1.62)と約1.4倍に上昇し、特にアルツハイマー型認知症については1.28倍、パーキンソン病の認知症では1.54倍と有意な関連が示されています[14]。

 

一方、脳卒中などの血管性認知症との関連は統計的に明確ではないという結果もあり[14], これはSASが主にアルツハイマー病のような変性性認知症のリスク因子である可能性を示唆します。

SAS患者では注意力や記憶力の低下、判断力の鈍りなど軽度認知障害がみられることもあり、日中の眠気と相まって生活の質を下げます。

しかし、CPAP治療によってこうした認知機能が改善したという報告もあり、脳へのダメージを長期的に減らせる可能性があります。

現時点でSASと認知症の因果関係は完全には解明されていませんが、「よく眠れていない」中年以降の方は将来の認知症予防のためにもSASのチェックを受ける価値があるでしょう〔[14]〕。

 

うつ病

SASと精神面の健康との関連も見逃せません。

特にうつ病との結びつきが多くの研究で指摘されています。

夜間の睡眠不足や低酸素状態が脳内の神経伝達物質のバランスを乱し、気分の落ち込みや意欲低下を招くと考えられます。

事実、SAS患者では抑うつ症状を訴える人が多く、3人に1人程度が中等度以上のうつ状態にあるとの報告もあります[15]。

さらに将来的な発症リスクについて見ると、SASのある人はない人に比べてうつ病を新たに発症する確率がおよそ2倍に高まることが縦断研究のメタ解析で示されています[16]。

一方、断面的な調査ではSASと軽症のうつ症状との関連は明確でないという結果もあり[16], 個人差が大きい可能性があります。

重要なのは、SASを治療すると抑うつ症状が改善するケースが多い点です[15]。

CPAP治療により日中の眠気が取れ活動的になることで、気分の落ち込みが解消したという患者さんも少なくありません[15]。

実際、SASの診断前はうつ病と診断され抗うつ薬を服用していた方が、無呼吸治療で劇的に元気を取り戻した例もあります。

SASと診断された方は、憂うつ感や興味の喪失といった症状にも注意し、必要に応じて精神科とも連携した包括的なケアを受けることをおすすめします〔[15]〕。

 

不妊症・流産

睡眠時無呼吸は生殖機能にも影響を及ぼす可能性があります。

男性ではSASによる夜間低酸素や睡眠障害がテストステロン(男性ホルモン)の分泌低下を招き、精子の質や性欲の低下につながる可能性があります。

一方女性では、SASが多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と関連することが知られており、PCOSは排卵異常による不妊の一因です[16]。

実際、PCOS患者の中でSASを合併している割合は高く、互いに影響し合っていると考えられています[16]。

さらに注目すべきは妊娠の維持への影響です。

 

ある不妊クリニックの研究では、睡眠時無呼吸と診断された女性は流産を経験する確率が有意に高いことが示されました[16]。

具体的には、以前SASと診断されたことのある女性は、そうでない女性に比べ流産を経験するオッズ比が6.17と大きく上昇していたのです[16]。

この背景には、SASによる慢性的な低酸素やストレスホルモン増加が胎盤の発達に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。

また、SAS女性では月経不順や排卵障害が起きやすいとの指摘もあります[16]。

以上のように、SASは妊娠しにくさ(不妊)や妊娠の継続困難(流産)とも関連しうるのです。

妊娠を希望する方で強いいびきや日中の極度な眠気がある場合、早めにSASの検査を受け治療しておくことが望ましいでしょう。

SAS治療によりホルモンバランスが整い妊娠に成功したケースも報告されています。

不妊症治療中の方は主治医と相談の上、睡眠検査の導入を検討してみてください〔[16]〕。

ED(勃起障害)

男性のSAS患者ではED(勃起障害)の合併が多いことが知られています。

SASによる血管内皮機能障害やテストステロン低下、睡眠不足による心理的ストレスが性機能に影響を与えるためです[17]。

研究によれば、中等度〜重度のSAS患者の約50%以上でEDが認められるとされています[17]。

スペインで行われた150人の中等症以上SAS患者を対象とした試験では、51%がEDの診断基準を満たし、SASでない男性より有意にEDの割合が高いことが示されました[17]。

SAS患者のEDは血管拡張不全によるものが多く、「夜間の無呼吸→酸素不足→一酸化窒素減少」というメカニズムで陰茎への血流が不足するためと考えられます[17]。

希望が持てるデータとして、CPAP治療によってEDが改善する場合があることが挙げられます[17]。

上述の試験では、3ヶ月間のCPAP使用後に国際勃起機能スコアの平均値が有意に上昇し、性行為への満足度も改善しました[17]。

ただしプラセボ対照下での有意差は僅差で、CPAPのみで劇的にEDが治るとまでは言えないものの、少なくとも悪化を防ぐ効果は期待できます[17]。

現在、ED治療薬(PDE5阻害薬)との併用で相乗効果が得られるか等の研究も進んでいます。

SASとEDは共通の原因(肥満や血管障害)を持つことが多いため、EDに悩む中高年男性ではSASのスクリーニングが推奨されます[19]。

逆に、SAS患者でED症状がある場合は泌尿器科で相談し、必要に応じて治療を受けると生活の質が向上するでしょう〔[17]〕。

 

むずむず脚症候群

むずむず脚症候群(RLS:レストレスレッグス症候群)は、脚を中心に虫が這うような不快感と抑えがたい脚の動かしたい衝動が起こる疾患で、夜間に症状が強く睡眠を妨げます。

SASとは異なる睡眠障害ですが、SASとRLSを両方併せ持つ方も珍しくありません

研究によると、睡眠クリニックを受診する患者さんではおよそ20〜30%にRLSが認められ、その割合はSASの有無で大きく変わらないものの、SAS患者にも約4人に1人はRLS症状があるとの報告があります[18][18]。

つまり偶然の合併も多いのですが、問題は両者が併存すると睡眠の質が一層低下しやすい点です。

インドの研究では、SASとRLSを併せ持つ群ではSAS単独の群に比べ、不眠症状の合併率が2倍以上(26% vs 10%)と高く、うつ病や不安障害などの精神疾患の合併率も約1.5倍に上ることが示されました[18]。

また簡易的な認知機能検査でも成績が悪化しており、SAS+RLSの組み合わせ(複合病態)は患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼすことがわかります[18].

幸い、それぞれの治療を適切に行えば症状改善が期待できます。

SASのCPAP治療で夜間血中酸素が維持されれば脚の違和感が緩和したケースや、逆にRLSに対する薬物療法で睡眠の質が改善し無呼吸発作が減ったとの報告もあります[18]。

脚のむずむず感といびきの両方でお困りの場合は、一度専門医に相談し、両面からのアプローチで睡眠環境を整えることが大切です〔[18]〕。

 

睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合はオンライン診療へ

以上のように、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は放置すると多岐にわたる疾患リスクを高めます。

しかし適切に治療すれば、これらリスクの多くは軽減可能です。「もしかしてSASかも?」と思われる方は、早めに医療機関で相談しましょう。

最近ではオンライン診療を活用して、自宅から専門医のアドバイスを受けることも可能です。

 

森下駅前クリニックでは、睡眠時無呼吸症候群の相談に対応したオンライン診療[19]を行っています。

移動の負担なく専門的な評価や治療方針の提案を受けられます。

オンラインでの問診の後、必要に応じて簡易睡眠検査機器を自宅へ貸し出すことも可能です。

結果に基づき、CPAP装置の導入など適切な治療につなげます。SASが疑われる症状(大きないびき、夜間の呼吸停止、日中の強い眠気、朝の頭痛など)がある場合は、一人で悩まず専門医に相談してください。

質の良い睡眠を取り戻し、将来の健康リスクを減らすためにも、早めの対応が何より重要です。

 

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参考文献

[1] Hou H, Zhao Y, Yu W, et al. Association of obstructive sleep apnea with hypertension: a systematic review and meta-analysis. J Glob Health. 2018;8(1):010405.
[2] Yu Z, Ren R, Li Y, et al. Association between obstructive sleep apnea and type 2 diabetes mellitus: a dose-response meta-analysis. Diabetes Metab Syndr Obes. 2021;14:2177-2187.
[3] Yeghiazarians Y, Jneid H, Tietjens JR, et al. Obstructive sleep apnea and cardiovascular disease: a scientific statement from the American Heart Association. Circulation. 2021;144(3):e56-e67.
[4] Marin JM, Carrizo SJ, Vicente E, Agusti AG. Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnea-hypopnea with or without treatment with CPAP. Lancet. 2005;365(9464):1046-1053.
[5] Yaggi HK, Concato J, Kernan WN, et al. Obstructive sleep apnea as a risk factor for stroke and death. N Engl J Med. 2005;353(19):2034-2041.
[6] Bonsignore MR, Esquinas C, Barceló A, et al. Metabolic syndrome, insulin resistance and sleepiness in real-life obstructive sleep apnea. Eur Respir J. 2012;39(5):1136-1143.
[7] Esteller E, Villatoro JC, Agüero A, et al. Obstructive sleep apnea syndrome and growth failure in children: prevalence, mechanism and effects of treatment. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2018;108:119-125.
[8] Beaudin AE, Raneri JK, Ahmed SB, et al. Risk of chronic kidney disease in patients with obstructive sleep apnea. Sleep. 2022;45(3):zsab267.
[9] Zhou M, Wang Y, Lin C, et al. The association between obstructive sleep apnea and carotid intima-media thickness: a systematic review and meta-analysis. Angiology. 2017;68(7):575-583.
[10] Gami AS, Olson EJ, Shen WK, et al. Obstructive sleep apnea and the risk of sudden cardiac death: a longitudinal study of 10,701 adults. J Am Coll Cardiol. 2013;62(7):610-616.
[11] Wang X, Wright Z, Wang J, Song G. Obstructive sleep apnea is associated with an increased risk of developing gastroesophageal reflux disease and its complications. J Respir. 2023;3(2):75-85.
[12] Musso G, Cassader M, Olivetti C, et al. Association of obstructive sleep apnea with the presence and severity of non-alcoholic fatty liver disease. Obes Rev. 2013;14(5):417-431.
[13] Chaudhry R, West KM, Chung F. Obstructive sleep apnea and risk of postoperative complications after non-cardiac surgery: a contemporary review. J Clin Med. 2024;13(3):xxxx (Epub ahead of print).
[14] Guay-Gagnon M, Vat S, Forget MF, et al. Sleep apnea and the risk of dementia: a systematic review and meta-analysis. J Sleep Res. 2022;31(5):e13589.
[15] Edwards C, Almeida OP, Ford AH. Obstructive sleep apnea and depression: a systematic review and meta-analysis. Maturitas. 2020;142:45-54.
[16] Ibrahim S, Mehra R, Tantibhedhyangkul J, et al. Sleep and obstructive sleep apnea in women with infertility: associations with miscarriage. Sleep Breath. 2023;27(5):1733-1742.
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[18] Malhotra N, Vaidya S, Gothi D. A study on the prevalence of restless legs syndrome in obstructive sleep apnea and the consequences of co-occurrence (ComOSAR). Lung India. 2023;40(4):299-304.
[19] https://morishitaekimae.com/online/

 

睡眠時無呼吸症候群をもっと詳しく

睡眠時無呼吸症候群(SAS)について、さらに詳しく知りたい方は各記事をご確認ください。

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