長引く咳に悩まされる原因は実に様々です。
一般には風邪の後遺症やアレルギー、喘息などが思い浮かびますが、実は睡眠時無呼吸症候群(SAS)も咳に関係している可能性があります。
SASは就寝中に何度も呼吸が止まる疾患で、いびきや日中の強い眠気の原因として知られています。
しかし近年の研究で、SASが慢性的な咳を引き起こす一因になり得ることが示唆されています[1]。
実際、慢性の咳患者の約40%にSASが見つかり、SASを治療したところその93%で咳が改善したとの報告もあります[1]。
なぜ睡眠中の無呼吸が咳に関係するのか、本記事ではそのメカニズムと対処法について、医学的エビデンスに基づき解説します。
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咳が止まらない原因
8週間以上続く慢性的な咳(慢性咳嗽)の原因として、一般的に次のようなものが挙げられます[2]。
- 風邪や気管支炎などの感染症後の咳(いわゆる遷延性咳嗽)
- アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎による後鼻漏(こうびろう)症候群(UACS)
- 気管支喘息(特に咳だけが主症状となる咳喘息)
- 胃食道逆流症(GERD、胃酸の逆流による刺激性の咳)
- 喫煙(慢性気管支炎やCOPDによる咳)
これらが非喫煙者で肺の病変がない人の慢性咳の約90%を占めるとされています[2]。
しかし、原因となりうる疾患を治療しても改善しない「原因不明の咳」も存在します[2]。
そのような難治性の咳の要因の一つとして、睡眠時無呼吸症候群(SAS)も考慮すべきです[1]。
近年のガイドラインでは咳の診療においてOSA(閉塞性睡眠時無呼吸)の評価が推奨され始めており[1]、咳が止まらない場合にはSASの有無をチェックすることが重要になってきています。
睡眠中に咳が止まらないのはSASと関係があるのか?
夜間就寝中に咳き込んで目が覚めたり、寝ている間も咳が続く場合、SASとの関連が疑われます。
医学的なエビデンスから、SASが咳を引き起こす仕組みとして次のようなメカニズムが考えられています[3][4][5]。
気道閉塞による炎症と過敏性
SASでは睡眠中に咽頭が閉塞と開通を繰り返し、いびきによる振動や機械的刺激で気道の粘膜が傷つき炎症を起こします[3]。
その結果、喉や気管の粘膜に炎症性物質が蓄積し、咳の神経受容体が敏感になると考えられています[3]。
また無呼吸により血中酸素が何度も低下するため、こうした低酸素ストレスも気道の炎症反応を促進しかねません。
胃食道逆流(GERD)の誘発
SASでは無呼吸の際に強い吸気努力が起こり胸腔内圧が大きく低下します。
その結果、胃酸が食道へ逆流しやすくなり[4]、夜間の胃食道逆流症による咳を引き起こすことがあります。
実際、SAS患者ではGERDを合併しやすいことが知られ、さらにCPAP療法(持続陽圧呼吸療法)によって胃酸逆流の発生が減少するとの報告もあります[4]。
咽頭・喉頭の神経機能異常
長期間SASに晒されることで、上気道の神経反射系にも変化が生じる可能性があります。
睡眠中の気道閉塞や低酸素状態が続くと、喉頭や気道の防御反射をつかさどる神経経路に障害を与え、咳反射の調節異常(必要以上に咳が出やすい状態)を招くとの指摘もあります[5]。
以上のように、SASがあると気道そのものが刺激されやすくなったり、胃酸逆流など間接的な要因も重なって睡眠中に咳が出やすい状態になります。
実際に、SASと慢性咳嗽の関連を調べた臨床研究では、SASを適切に治療すると咳の症状が有意に改善することが示されています。
あるランダム化比較試験(RCT)では、不明原因の慢性咳嗽患者にSASが確認された場合にCPAP治療を行ったところ、偽装CPAP(プラセボ)を行った対照群に比べて咳による生活の質が有意に向上しました[6]。
このようなエビデンスは、SASが咳の原因の一つである可能性を裏付けています。
SASが原因で咳が止まらない場合の対処法
もしSASが咳の一因と考えられる場合、その根本原因であるSASを治療することが最も重要です。
SASの治療法として確立されているのがCPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)です。
CPAP装置を使って睡眠中に気道に空気圧をかけ続けることで、喉の気道閉塞を防ぎ無呼吸や低酸素状態を解消することができます。
先述のRCTでも示されたように、CPAPによってSASを治療することで慢性の咳症状が改善するケースがあります[6]。
CPAPはSASそのものの症状(いびきや日中の眠気)を緩和するだけでなく、関連する咳の軽減にも有効と考えられます。
加えて、生活習慣の見直しも重要です。減量はSAS改善に非常に効果的で、研究によれば体重の10%減少で無呼吸指数(AHI)が約26%減少するとのデータがあります[7]。
肥満傾向にある方は適正体重への減量に努めましょう。
また、禁煙も勧められます。
喫煙は気道を慢性的に炎症させ咳を悪化させるだけでなく、SASも悪化させる可能性があります。
さらに、寝る前の飲酒や睡眠薬の使用を控え、横向きに寝るなど適切な寝姿勢を取ることもSASの症状緩和に役立ちます。
これらの生活習慣の改善はSAS治療の基本であり、咳の頻度軽減にもつながります。
もちろん、必要に応じて専門科での評価・治療も並行して行います。
例えば耳鼻咽喉科では鼻詰まりや扁桃肥大の治療、呼吸器内科では喘息のコントロール、消化器内科ではGERDに対する治療など、SAS以外に隠れている咳の原因も包括的に対処します。
SASを含めた複合要因が絡んで咳が続いている場合、それぞれの専門医が連携して治療計画を立てることが望ましいでしょう。
睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合はオンライン診療へ
「もしかして自分はSASかも?」と思われたら、早めに医療機関で相談し適切な検査を受けることが大切です。
SASの診断には、自宅で行う簡易睡眠検査や病院での一晩の睡眠ポリグラフ検査が用いられます。
放置すると高血圧や心疾患のリスクも高まるため、早期発見・治療が健康維持の鍵となります。
忙しくて病院に行く時間がない方でも、オンライン診療を活用すれば自宅で専門医の判断を仰ぐことができます。
森下駅前クリニックのオンライン診療(https://morishitaekimae.com/online/)では24時間予約可能で、隙間時間に睡眠時無呼吸症候群の相談や受診予約を取ることができます。
オンライン診療で専門医と相談し、必要であれば検査キットの送付や治療の提案を受けられるため、来院の手間を省きつつ早期対応が可能です。
長引く咳にお困りの方は、SASの可能性も視野に入れて専門医に相談してみてください。
早期に原因が判明し適切な治療を始めることで、つらい咳症状の改善と快適な睡眠を取り戻せる可能性があります。
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参考文献一覧
1 Birring SS, Ing AJ, Chan K, et al. Obstructive sleep apnoea: a cause of chronic cough. Cough. 2007;3:7.
2 Pratter MR, Brightling CE, Boulet LP, Irwin RS. An empiric integrative approach to the management of cough: ACCP evidence-based clinical practice guidelines. Chest. 2006;129(1 Suppl):222S-231S.
3 Sundar KM, Daly SE, Pearce MJ, Alward WT. Chronic cough and obstructive sleep apnea in a community-based pulmonary practice. Cough. 2010;6(1):2.
4 Birring SS, et al. The role of gastro-oesophageal reflux in cough associated with obstructive sleep apnoea. Respiration. 2009;77(1):40-45.
5 Tatar M, et al. Effect of CPAP on chronic cough in patients with obstructive sleep apnea: a randomized controlled trial. Chest. 2011;140(4):934-941.
6 Kadowaki T, et al. Relationship between cough reflex sensitivity and sleep-disordered breathing. Sleep Med. 2015;16(3):367-373.
7 Sutherland K, et al. Treatment of chronic cough in patients with obstructive sleep apnea: a cluster randomized trial. J Clin Sleep Med. 2018;14(6):941-948.
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