睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)は、近年患者数が増加している重要な睡眠障害です。

 

中でも閉塞型SAS(喉や鼻など上気道の閉塞によるもの)が大半を占め、以前考えられていたよりも頻度が高いことがわかっています。

 

実際、日本では成人男性の約20%、閉経後の女性の約10%が中等症以上のSASに該当するとの報告があり【1】、現在50万人以上もの方がCPAP(後述)の治療を受けています【1】。

 

SASの主な症状は大きないびき睡眠中の無呼吸(呼吸が止まる)夜間の息苦しさによる突然の覚醒、そしてそれによる日中の強い眠気や倦怠感などです【3】。

 

放置すれば高血圧、心臓病、不整脈、脳卒中など様々な生活習慣病のリスクを通常の2~3倍にも高めることが報告されており【3】、居眠り運転による交通事故の原因にもなり得る深刻な疾患です【2】。

 

しかし、適切に診断して治療を行えば症状は大きく改善し、こうしたリスクを減らすことが可能です【2】。

 

本記事では、SASとは何か、その診断と治療について、特に耳鼻咽喉科(いわゆる「耳鼻科」)での対応に焦点を当てて、一般の患者さん向けにわかりやすく解説します。

 

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、文字どおり「睡眠中に繰り返し呼吸が止まる」病気です。医学的には、10秒以上の呼吸停止を「無呼吸」と定義し、これが一晩に何度も発生する状態を指します。

 

多くの場合、喉(咽頭)の空気の通り道が睡眠中に塞がることで起こる閉塞型SASであり、まれに脳の呼吸中枢の異常による中枢型SASもあります(SASの大部分は閉塞型で、本記事でも閉塞型について扱います【2】)。

 

閉塞型SASでは、睡眠中に舌や軟口蓋(喉ちんこを含む上あごの柔らかい部分)が喉の奥に落ち込み、気道を塞いでしまいます。

 

その結果、血中の酸素が低下し、脳が危機を察知して何度も覚醒反応(浅い目覚め)を引き起こすため、熟睡できずに日中の眠気や疲労感につながります。

 

SASの診断には、一晩の睡眠中に発生する無呼吸・低呼吸(呼吸が浅く弱くなる)の回数を指数化したAHI(無呼吸低呼吸指数)が用いられます。

 

一般的にAHIが5以上で睡眠時無呼吸の疑いがあり、15以上で中等症、30以上で重症と分類されます【2】。

 

例えば、AHI=20とは「1時間あたり20回の無呼吸・低呼吸発作」が起きていることを意味します。

 

また、症状の有無も診断の重要なポイントです。夜間の激しいいびきや断続的な無呼吸、起床時の頭痛、日中の過度の眠気などの症状が典型的で【3】、特に日中の耐え難い眠気は交通事故など社会生活上の大きな危険因子となります【2】。

 

実際、ある調査では重症SAS患者の約10%が直近数年間に居眠り運転による事故を経験していたとの報告があります【2】。

 

このようにSASは放置できない病気ですが、幸い治療法が確立している疾患でもあります。

 

後述するCPAPやマウスピースなどの治療により無呼吸を防ぐことで睡眠の質が改善し、高血圧や心血管疾患のリスクも軽減できることが臨床研究で示されています【2】【3】。

 

SASの発症には様々な要因が関与しますが、特に肥満は最大の危険因子です。肥満の方は首や喉周りに脂肪が付きやすく気道が狭くなるため、無呼吸になりやすいのです【3】。

 

実際、体重増加とSASの発症には密接な関連があり、ガイドラインでも肥満患者には減量を含む生活習慣の是正が強く推奨されています【2】。

 

その他、顎の骨格の形状(下顎が小さい、後退している)、扁桃肥大(喉の扁桃腺が大きい)、鼻づまり(鼻中隔湾曲症や慢性鼻炎による)などで上気道が狭い方もSASになりやすい傾向があります【3】。

 

性別では男性に多く、女性でも閉経後(ホルモンバランスの変化後)はリスクが高まります【3】。

 

これらの解剖学的・体質的な要因に、飲酒や睡眠薬の使用(筋肉が弛緩し無呼吸が悪化)、寝る姿勢(仰向けは悪化しやすい)などの生活要因が加わり、SASが発症・増悪すると考えられています。

 

睡眠時無呼吸症候群は耳鼻科で診てもらえる?

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は耳鼻咽喉科(耳鼻科)でも診察・治療が可能です。

 

SAS診療というと一般には呼吸器内科や睡眠専門外来を思い浮かべる方も多いですが、実は耳鼻科もSAS診療の重要な担い手です【2】。

 

特に閉塞型SASは鼻や喉の構造が深く関与するため、上気道の専門科である耳鼻科は診断から治療まで大きな役割を果たします【2】。

 

以下に、耳鼻科での具体的な診察の流れや検査内容、他の診療科との役割分担について説明します。

 

耳鼻咽喉科での診察の流れ

耳鼻科を受診してSASの疑いを相談すると、まず問診による詳しい症状の聞き取りが行われます。

 

いびきの状況や無呼吸の有無、日中の眠気の程度(必要に応じてエップワース眠気尺度などの質問票を用いて評価)、起床時の頭痛・口渇の有無、夜間頻尿の有無、既往症(高血圧や糖尿病など関連しうる病気)など、多角的に確認します。

 

また、同居のご家族やパートナーの方から睡眠中の様子(無呼吸や異常な呼吸の指摘)について情報を得ることもあります。

 

生活習慣(飲酒や喫煙、就寝時間)も重要なポイントです。

 

次に身体診察を行います。耳鼻科では主に上気道(鼻から咽頭)の評価を目的とした診察が行われます。

 

具体的には、鼻腔内の診察でポリープ(鼻茸)や鼻中隔の曲がり、粘膜の腫れ具合を観察し、慢性的な鼻づまりの原因がないか確認します。

 

口腔内と咽頭の診察では、舌の大きさ(舌が大きい・後方に落ち込みやすいか)、扁桃の大きさ(扁桃肥大があるか)、軟口蓋と喉の形状(のどちんこが大きい・軟口蓋が下がっていないか)などを観察します。

 

必要に応じて、細い内視鏡(ファイバースコープ)を鼻から挿入して喉の奥(上咽頭や喉頭)の状態を詳しく調べ、気道がどの程度狭いか、どの部位で閉塞が起きやすそうかを評価します。

 

耳鼻科医はこうした上気道の解剖学的特徴を詳しくチェックし、SASの原因となりうる形態的な問題を把握します。

 

上気道の診察所見は、その後の検査や治療法の選択にも大いに役立ちます【3】。

 

また血圧測定やBMI(肥満度)のチェックも行われ、全身的にSASのリスク因子が揃っていないか確認します。

 

問診と診察の結果から「睡眠時無呼吸症候群が疑わしい」と判断された場合、次は客観的に睡眠中の呼吸状態を調べる検査へと進みます。

 

どんな検査をするのか(簡易検査とPSG)

耳鼻科を含むSAS診療では、まず自宅で行える簡易検査が行われることが一般的です。

 

簡易検査とは、携帯型の睡眠モニター(簡易ポリグラフ)を用いて一晩自宅で測定する検査です。

 

指先の酸素飽和度センサーや鼻の気流センサー、いびきや体位を記録するセンサーなどを装着して就寝することで、睡眠中の無呼吸・低呼吸の発生状況を記録します【2】。

 

病院に一泊せず自宅でできる手軽さからスクリーニング検査として広く普及しており、中等症~重症のSASであれば高い精度で発見することができます。【2】

 

簡易検査の結果、AHIが高値(例えば40以上)で明らかな無呼吸症候群と症状が認められた場合には、臨床診断の上ですみやかに治療(後述のCPAPなど)へ進むことが可能です【2】。

 

実際、日本の診療ガイドラインでも、簡易検査で重度SASが強く示唆される場合には確定診断として扱って良いとされ、健康保険上も「簡易検査でAHI40以上」がCPAP療法の導入基準の一つになっています【2】。

 

一方、簡易検査でAHIが軽度~中等度(例えば5~30程度)の場合や、症状と検査結果に食い違いがある場合などには、より精密な検査であるPSG(終夜睡眠ポリグラフ)検査が行われます【2】。

 

PSG検査は病院など専門施設に一泊入院して行う精密検査で、脳波・眼球運動・顎や脚の筋電図・心電図・呼吸気流・いびき音・酸素飽和度など多数のセンサーを装着し、一晩かけて睡眠の深さや構造も含め詳細なデータを記録します。

 

簡易検査では正確に測定できない睡眠そのものの質(何時間眠れたか、どのくらい深い睡眠が得られているか)も評価でき、睡眠時無呼吸の確定診断や重症度判定にはゴールドスタンダード(最も信頼できる基準)となる検査です【2】。

 

PSGでは他の睡眠障害(例:周期性四肢運動症やREM睡眠行動異常症など)の鑑別も同時に行えるメリットがあります。

 

日本の保険診療では「PSG検査でAHIが20以上」もSASの診断基準とされており【2】、簡易検査では判断が難しい軽症~中等症例ではPSGによる評価が推奨されます。

 

以上のように、耳鼻科受診後はまず簡易検査でSASの有無と大まかな重症度を確認し、必要に応じてPSG検査で精密な診断を行う流れになります。

 

検査結果を踏まえて確定診断がついたら、次は適切な治療方針の決定となります。

 

耳鼻科と他の診療科の違い

睡眠時無呼吸症候群の診療には、耳鼻咽喉科の他にも様々な診療科が関与します。SASは全身に影響を及ぼす疾患であり、多職種・多診療科なアプローチが重要だからです【2】。

 

実際、ガイドライン作成にも呼吸器内科、循環器内科、耳鼻咽喉科、精神科、歯科口腔外科など多くの専門分野の医師が関わっており【2】、それぞれの専門性を活かした連携診療が推奨されています。

 

耳鼻科は先述のとおり上気道の評価と治療を専門とするため、鼻や喉の形態的な問題の是正に強みがあります。

 

具体的には、SASの原因となる鼻詰まりや扁桃肥大、軟口蓋の肥厚などに対して外科的治療(手術)を行ったり、CPAP使用時に鼻の通りを良くする処置を行ったりします(後述)【3】。

 

一方、呼吸器内科は肺や気道疾患の専門であり、SASの標準治療であるCPAP療法の導入・管理や、併存する肺疾患(COPDや喘息など)がある場合の全身管理を担うことが多いです。

 

循環器内科はSASと関連の深い高血圧や心不全、不整脈など心血管疾患の管理を行い、心不全に伴う中枢型無呼吸(チェーンストークス呼吸)の治療などに長けています。

 

歯科(歯科口腔外科)はマウスピース(口腔内装具)療法の作製・調整を担う分野です。SAS患者さんに適切なマウスピースを作るには歯科医師の専門技術が必要であり、耳鼻科や内科からの依頼を受けて装置を作製します。

 

さらに、睡眠医療の専門科(睡眠外来)は、これら各科を横断する立場でSAS診療にあたります。

 

睡眠専門医には呼吸器・精神神経・耳鼻科など様々なバックグラウンドの医師がおり、SAS以外の睡眠障害の合併評価や、治療効果判定、他科への橋渡しをする役割があります。

 

このように各分野が役割を持っていますが、患者さんはまずどこか一つの診療科を受診すれば大丈夫です。

 

すでに耳鼻科で受診中の場合は耳鼻科で継続治療(ただし耳鼻科でも無呼吸症候群の対応をしていない場合もあります)を受けられますし、必要があれば耳鼻科医から他科(呼吸器内科や歯科など)への紹介も行われます。

 

逆に内科等から耳鼻科へ手術目的で紹介されるケースもあります。

 

重症例や合併症が多いケースでは、総合的に診られる睡眠医療センター(専門施設)に転院いただくこともあります【2】。

 

ガイドラインでも、一般医(プライマリケア医)はいびきや日中眠気などSASを疑う患者をまず適切に診断し、高度な治療が必要な場合には睡眠専門施設へ紹介することが推奨されています【2】。

 

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耳鼻科で行う治療方法

睡眠時無呼吸症候群の治療は、患者さんの重症度や原因に応じて最適な方法を組み合わせて行います。

 

基本となるのは生活習慣の是正で、特に肥満のある方では減量によってSASが大幅に改善する可能性があります【2】。

 

ガイドラインでも「全ての肥満患者に減量指導を行う」ことが強調されており【2】、実際に体重を減らすと無呼吸の程度(AHI)が減少し、症状が軽快するケースが多く報告されています。

 

また、就寝前の飲酒は喉の筋肉を弛緩させ無呼吸を悪化させるため控える、十分な睡眠時間を確保する、仰向けで寝ると無呼吸が増える人は横向きで寝る工夫(体位療法)をする、といった生活上の対策も有用です。

 

これらの基礎を踏まえた上で、SASの主な治療として以下のような方法があります。

 

CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)

CPAP(シーパップ, Continuous Positive Airway Pressure)療法は、中等症~重症の閉塞型SASに対する第一選択の治療法です【2】。

 

専用の小型機器にホースで繋がったマスクを鼻(場合により鼻と口)に装着して就寝すると、寝ている間ずっと一定の空気圧を喉に送り込み、気道内圧を高く保つことで喉の通り道が塞がらないようにします。

 

いわば「寝ている間ずっと気道を空気で支える添木を当てている」ようなイメージで、これにより無呼吸の発生をほぼ完全に防ぐことができます。

 

SASの治療として1980年代に登場して以来、その有効性は世界中で確立しており【2】、現在でも最も効果的な治療法です。

 

CPAPを使用すると睡眠中の無呼吸・低呼吸がほぼゼロに抑えられるため、睡眠の質が飛躍的に改善し、日中の眠気も多くの患者さんで劇的に軽減します

 

研究により、CPAP治療によって高血圧が改善する(SAS患者では夜間血圧が低下し、起床時の血圧が下がる)ことや、放置すれば心血管疾患を起こしやすかった重症SAS患者でCPAP使用者は非使用者に比べて将来の心疾患・脳卒中の発症率が有意に低下したことが報告されています【2】【4】。

 

このように健康面で大きなメリットが得られるため、睡眠中に無呼吸が頻発する中等症以上の方には原則としてCPAP療法がすすめられます。

 

CPAP療法は1998年に日本で保険適用となって以来急速に普及し、現在では50万以上の患者さんがCPAPを利用している標準的治療です【1】。

 

機器本体は小型で、自宅の枕元で使用できます。

 

マスクの形状も鼻に装着する小型のものから鼻口覆うものまで様々あり、装着感の向上した新しいモデルも登場しています。

 

それでも最初は「就寝時に機械に繋がれる」という違和感から抵抗を感じる方もおられますが、多くの場合は数日~数週間で慣れてしまい、その効果を実感できればむしろ手放せなくなると言われます。

 

実際、CPAP導入患者の80%以上が治療を継続できているというデータもあります。

 

効果を十分得るためには毎晩しっかり使用すること(継続使用すること)が重要で、使用時間が長いほど症状や合併症の改善効果も高まることがわかっています【4】。

 

一般には「少なくとも1晩あたり4時間以上」の使用が推奨されており、眠っている間できるだけ長時間マスクを着けることが望ましいです(もちろん可能ならば就寝から起床までフルに使用するのが理想です)。

 

治療開始後は定期的に医療機関で効果判定や機器の動作確認を行いますが、近年は遠隔モニタリングシステムが確立しており、CPAP装置に内蔵された通信機能で使用データ(使用時間や無呼吸低呼吸指数、マスク漏れなど)を医療側が把握して適切に指導することができます【1】。

 

日本でも2018年からCPAP遠隔モニタリングが保険診療として認められており【1】、通院の負担軽減に役立っています。

 

以上のように、CPAP療法はSAS治療の柱となる非常に有効な方法ですが、残念ながらすべての患者さんに適用できるわけではありません

 

マスクや機械にどうしても慣れず使用を継続できない方や、鼻づまりがひどく十分な気流を送れない方、軽症でCPAPの適応とならない方などもいます。

 

そのような場合には、他の治療法を検討することになります。

 

外科手術による治療(上気道の手術)

耳鼻科では、睡眠時無呼吸の原因となっている鼻・喉の構造的問題を外科的に改善する治療も行っています。

 

SASに対する外科手術の目的は、上気道(空気の通り道)を物理的に拡げて無呼吸の発生を減らすことです。

 

代表的な手術は、喉の奥の余分な軟部組織を切除・縮小して気道を広げる咽頭手術です。

 

具体的には、軟口蓋や口蓋垂(いわゆるノドチンコ)を切除・縫縮する口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)や、肥大した扁桃を摘出する扁桃摘出術が行われます。

 

これらにより咽頭腔が拡大し、空気の通り道が広がっていびきの音量低下や無呼吸エピソードの減少が期待できます【3】。

 

また、重度の鼻づまりが無呼吸を悪化させている場合には、鼻中隔矯正術(曲がった鼻中隔軟骨をまっすぐ矯正する手術)や下甲介粘膜切除・焼灼術(肥厚した鼻粘膜を減容する処置)などの鼻手術を行い、鼻呼吸の改善を図ります。

 

鼻の通りが良くなると睡眠中の呼吸効率が上がり、それ自体で無呼吸が軽減するほか、CPAP療法で必要な空気圧を下げられるためCPAP機器をより快適に使えるようになるという報告もあります【3】。

 

このように、耳鼻科領域の手術は主に鼻腔や咽頭の空気路を拡大することを目的としており、適切な症例ではQOLの向上に寄与します【1】。

 

一方で、外科手術には侵襲(からだへの負担)が伴うため慎重な適応判断が必要です。

 

手術そのものは全身麻酔下で行われ、入院が必要になります。術後には痛み出血のリスクがあり、咽頭手術の場合は声の変化(鼻に抜ける声になる)や嚥下時の違和感などが生じることがあります【1】。

 

特にUPPP後は、一部の患者さんで軟口蓋の閉鎖不全(飲食物が鼻に抜けやすくなる)や長引く咽喉の違和感、味覚の一時的な変化などが報告されています【1】。

 

また、レーザーによる簡易的な咽頭手術(LAUP)はかつていびき治療として行われたこともありましたが、効果が不確実で瘢痕による気道狭窄の副作用が指摘されたため現在は推奨されていません【1】。

 

このようにリスクもあるため、手術は基本的に「他の治療が困難な場合」や「解剖学的に明らかな原因が存在する場合」に検討されます【1】。

 

ガイドラインでも「CPAPや口腔装具が使用できない症例で、耳鼻咽喉科的手術の適応がある場合に、副作用について十分説明した上で施行を提案する」ことが推奨されています【1】。

 

例えば、扁桃肥大が著明でそれが主な原因と思われる成人症例や、CPAPをどうしても使えない重症例で軟口蓋肥大がある場合などには、手術が選択肢となります。

 

特に小児の閉塞型SASでは、原因の多くが扁桃肥大・アデノイド増殖症であるため、耳鼻科でのアデノイド・扁桃摘出術が第一選択となり、多くの症例でSASが根治することが知られています(小児SASでは成人と異なり手術適応が広くなります)。

 

なお、SASに対する外科的アプローチには耳鼻科領域の手術以外に顎顔面の骨格に対する手術もあります。

 

下顎が小さく咽頭が狭い骨格的な要因が大きい場合には、上下の顎骨を前方に移動させる顎顔面形成術(顎矯正手術)が有効です【3】。

 

これは形成外科や口腔外科で行われる大掛かりな手術ですが、気道容積を飛躍的に広げることができ、CPAP療法が困難な重症例に対して根治を目指して行われることがあります【3】。

 

近年では、舌の筋肉を支配する舌下神経にペースメーカー様の装置を埋め込み、睡眠中に舌筋を電気刺激して気道閉塞を防ぐ「舌下神経刺激療法」といった最新の治療法も一部で導入されていますが(日本では未承認)、現時点では適応となる限られた症例に対する研究段階の治療です。

 

総じて、耳鼻科領域の外科治療は「患者さんごとの解剖学的問題を直接改善する」アプローチであり、効果の現れ方には個人差があります。

 

単独の手術でSASが完治するケースもあれば、無呼吸の程度は改善しても完全には消失せず、引き続きCPAPやマウスピースが必要となるケースもあります。

 

ただし手術によりいびきや日中の眠気などの自覚症状が大きく改善し生活の質(QOL)が向上することは多く報告されており【1】、患者さんの状態に応じて適切な手術が検討されます。

 

マウスピース(口腔内装具)による治療

マウスピースによる治療は、睡眠時にマウスピース型の装置(スリープスプリントとも呼ばれます)を装着することで下あごを前方に固定し、喉の奥の気道を広げて無呼吸を防ぐ治療法です。

 

下顎を前に出すことで舌根部が引き上げられ、仰向けに寝ても舌や軟口蓋が喉を塞ぎにくくなります。

 

また、装置装着中は口が半開きにならないため口呼吸から鼻呼吸に矯正する効果もあり、いびきの音量低下にも寄与します【5】。

 

この治療は軽症~中等症の閉塞型SASや、重症でもCPAPがどうしても使えない症例に対して適用されます【1】。

 

ガイドラインでも、AHIが軽度だが日中の眠気など症状がある場合には第一選択肢となりうること、また中等症以上でもCPAP非適応例や不耐容例では有用であるとされています。

 

マウスピース治療を行う場合は、まず耳鼻科や内科でSASの診断を確定した上で歯科口腔外科に依頼し、専門の歯科医師が患者さん個人に合わせた装置を作製します。

 

上下の歯型を取り、咬み合わせの具合を計算して作られるオーダーメイドの医療用マウスピースで、市販の簡易いびき防止マウスピースとは全く別物です。

 

完成した装置を就寝時に装着していただき、装着後に再度睡眠時の無呼吸の程度を検査して効果を確認します(装置が合っていない場合は歯科で調整を行います)。

 

このように医科と歯科の連携で進める治療になります。

 

マウスピース治療のメリットは、患者さんの負担が比較的少ないことです。

 

CPAPのように機械やホースに繋がれる必要がなく、装置も小さいため旅行先などへも携行しやすいです。

 

また電源も不要です。

 

一方でデメリットとしては、治療効果がCPAPと比べてやや劣る点が挙げられます【1】。

 

無呼吸を完全に抑制する力はCPAPほど強くありませんが、それでも多くの患者さんでAHIの改善(無呼吸低呼吸の減少)や症状の軽減が得られます【1】。

 

特にいびきについては顕著に小さくなる例が多く、 一緒に寝る人の睡眠も守れるという利点もあります。

 

実際の臨床研究でも、CPAPほどAHIは下がらないものの患者さんの主観的な眠気や生活の質(QOL)の改善効果はCPAPに匹敵するとの報告もあります【1】【3】。

 

これはマウスピースのほうが違和感が少なく長時間使用しやすい(夜通し装着しやすい)ためと考えられています【3】。

 

また、血圧への効果に関しても興味深いデータがあります。ある大規模臨床研究では、CPAPとマウスピースのいずれも収縮期・拡張期血圧を数mmHg程度低下させる効果があり、両者の降圧効果に有意差は認められなかったと報告されています【4】。

 

つまり、適切な患者さんに用いればマウスピースでもCPAPと同等に心血管リスクの改善が期待できる可能性があります【4】。

 

マウスピース治療にも留意点があります。

 

装置に慣れるまで顎関節や歯に痛み・違和感を生じることがあり、起床時に一時的に噛み合わせがずれる感じがすることもあります。

 

また長期間使用することでわずかに歯並びや咬合が変化してくるケースも報告されています【1】。

 

そのため、定期的に歯科での経過チェックと装置の調整を受けることが大切です。

 

総じて副作用は軽微で可逆的なものがほとんどですが、治療を続けるうえでは歯科医師との協力が欠かせません。

 

マウスピースによる治療は2004年から睡眠時無呼吸症候群に対して健康保険が適用となっています【5】。

 

そのため、SASと確定診断された上で医科から歯科へ紹介状を持参すれば、保険診療(3割負担の場合)で1~2万円程度の自己負担費用で装置を作製することが可能です【5】(装置の種類によっては保険適用外の場合もありますので担当医にご相談ください)。

 

保険適用となったことで経済的ハードルも下がり、多くの患者さんがマウスピース治療を選択できるようになりました。

 

以上、睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療法であるCPAP、手術、マウスピースについて説明しました。

 

軽症の方ではまず生活習慣の改善とマウスピースで経過を見て、無呼吸が著明な方ではCPAPを導入し、解剖学的問題が大きい場合には手術を組み合わせる、といったように患者さんごとに最適な治療計画を立てることが重要です。

 

耳鼻科では、これら治療法の選択において上気道の専門知識を活かし、必要に応じて他科とも連携しながら、SAS患者さんの症状改善と合併症予防に努めていきます。

 

睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合はオンライン診療へ

睡眠時無呼吸症候群は早期発見・早期治療が何より大切です。

 

上記の症状に思い当たる方、大きないびきを指摘されている方、昼間の異常な眠気にお困りの方は、ぜひ一度専門の医師にご相談ください。

 

当院・森下駅前クリニック(内科・呼吸器内科)では、通院の負担を減らせるオンライン診療(遠隔診療)にて睡眠時無呼吸症候群の診療を行っております。

 

ビデオ通話を用いたオンライン診察で問診を行い、必要と判断した場合は簡易検査機器をご自宅へ郵送して睡眠検査を実施します。

 

検査の結果SASと診断された際には、対面診療と同様に保険適用でCPAP療法の導入を行います。

 

CPAP装置一式をご自宅にお送りし、使用方法はオンラインで丁寧に指導いたしますので、ご安心ください。

 

CPAP治療中も遠隔モニタリングにより機器の使用状況データを確認できるため【1】、オンライン診療下でも適切に治療効果を把握しフォローアップを行えます。

 

忙しくて通院の時間が取りにくい方や遠方にお住まいの方でも、自宅にいながら専門的な睡眠医療を受けていただけます。

 

睡眠時無呼吸症候群かな?と思ったら、まずはお気軽に森下駅前クリニックのオンライン診療をご利用ください。

 

私たち専門医が、一人ひとりに合った最適な検査・治療プランをご提案し、快適な睡眠と健康な生活を取り戻すお手伝いをいたします。

 

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睡眠時無呼吸症候群をもっと詳しく

睡眠時無呼吸症候群(SAS)について、さらに詳しく知りたい方は各記事をご確認ください。

治療

検査

予防

合併症

症状

原因

傾向

疑い

 

 

参考文献(References)

[1] Chin K, Akashiba T, Inoue Y, et al. Guideline Sleep Apnea Syndrome (SAS) Clinical Practice Guidelines 2020. Sleep and Biological Rhythms. 2022;20(1):–.​

[2] Shiomi T, Sasanabe R. Advances in Diagnosis and Treatment of Sleep Apnea Syndrome in Japan. JMAJ. 2009;52(4):224–230

.

[3] Choudhury N, Deshmukh P. Obstructive Sleep Apnea in Adults and Ear, Nose, and Throat (ENT) Health: A Narrative Review. Cureus. 2023;15(10):e47637

[4] Bratton DJ, et al. CPAP vs Mandibular Advancement Devices and Blood Pressure in Patients with OSA: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2015;314(21):2280-2293​

[5] 一般財団法人運輸・交通SAS対策支援センター. 「マウスピースによる治療」(睡眠コラム)2023年​

 

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