最近、「見る夢がなんだかおかしい」「悪い夢ばかり見るようになった」「そもそも夢を全然見なくなった気がする」と感じていませんか?実は、こうした夢の変化は、単なるストレスや偶然ではなく、睡眠の質や健康状態のサインである可能性があります。
中でも注目したいのが、睡眠中に呼吸が止まる疾患である睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)です。SASは睡眠中に繰り返し呼吸が停止・低下することで睡眠の質を著しく損ない、いびきや日中の強い眠気など様々な症状を引き起こします。そして近年の研究から、SASは私たちの「夢」にも影響を与え得ることがわかってきました。
もし「最近見る夢が変だ」と感じているなら、もしかするとそれはSASからの警告サインかもしれません。本記事では、一般成人の方向けに「夢の変化と睡眠時無呼吸症候群」の関係について最新エビデンスに基づいて解説します。
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睡眠時無呼吸症候群(SAS)は「夢」に影響を与えるのか?
結論から言えば、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は夢の見方や内容に影響を与える可能性があります。ただし、その影響の現れ方は一様ではなく、研究結果も矛盾した所見が報告されています。
一部の研究では、重度のSAS患者では夢を「見る」頻度や悪夢の頻度がむしろ減少する、つまりSASが深刻になるほど夢を見なくなる傾向が示されています。これは睡眠が断片化しREM睡眠(夢を見る睡眠段階)が減少してしまうため、夢自体が少なくなるか、夢を覚えていない可能性があります。
一方で、SAS患者では夢の内容がより鮮明で感情的(とくに否定的)になるとの報告もあります。実際、ある研究では、中等度以上の睡眠時無呼吸(AHI≧15)の患者は、無呼吸のない人に比べて夢の「不快感」が有意に高い(悪夢傾向が強い)ことが示されました。また、夢の数自体は健常者と大きく変わらなくとも、その夢の内容が暴力的・攻撃的といったネガティブな感情を伴うものが増えるという結果も報告されています。
さらに特徴的なのは、「息ができない」ような悪夢です。SASでは睡眠中に繰り返し呼吸が止まり低酸素状態になりますが、脳はその危機を反映して「窒息する」「溺れる」などの夢を見せる場合があります。実際、睡眠時無呼吸症候群の患者で悪夢に悩む人たちを調べた研究では、悪夢の大半が息苦しさに関連する内容(例:「深い井戸に落ちて必死に呼吸しようともがく夢」「誰かに首を絞められて息ができなくなる夢」「海で溺れて酸素がなく苦しい夢」など)だったと報告されています。
このように、「夢をあまり見なくなる」ケースから「嫌な夢・怖い夢が増える」ケースまで、SASは人の夢に様々な形で影響を及ぼしうるのです。
なぜ睡眠時無呼吸症候群(SAS)で夢が変わる?
SASによって夢が変化する理由として、睡眠の質・構造の乱れと酸素不足による生理的ストレスという2つのメカニズムが考えられます。
まず、SASでは睡眠中に何度も呼吸が止まるため、そのたびに脳が覚醒反応を起こし、睡眠が細切れ(断片化)になってしまいます。特に夢を見る段階であるREM睡眠中に無呼吸発作が起こると、脳は正常な睡眠サイクルを中断され、途中で目が覚めたり浅い睡眠段階に引き戻されたりします。
この結果、夢の途中で目覚めてしまうことで夢を覚えやすくなる一方、十分に長い夢を継続して見ることができず夢自体は断片的になります。ある研究では、SAS患者では睡眠が浅くなる割合が高く、それによって夢を見ている自覚や夢の記憶が増える可能性が指摘されています。実際、重度のSAS患者は健常者と比べて夢の内容の記憶(夢想起)が鮮明で長い傾向があるとの報告もあります。これは頻繁に睡眠が中断されることで常に夢の途中で覚醒し、夢を記憶しやすくなるためと考えられます。
次に、低酸素状態に対する脳の生理反応も夢に影響します。無呼吸により血中酸素が低下すると、脳は「窒息の危機」と判断してストレスホルモンを分泌し、いわば身体は戦闘モード(闘争・逃走反応)になります。その結果、睡眠中であっても心拍数や血圧が上昇し、脳も不穏な活動状態となってしまいます。この生理的ストレスが悪夢(生命の危機に関する恐怖夢)を誘発すると考えられています。
実際、前述のようにSAS患者の見る悪夢には「息苦しさ」「死の危険」といったテーマが多く、これは睡眠中の酸素不足に対する脳の警告反応だと考えられます。19世紀の報告でも、睡眠中に人工的に呼吸を妨げると悪夢を見ることが指摘されており、低酸素と悪夢の関連は古くから示唆されています。
さらに、慢性的な睡眠不足や低酸素による認知機能への影響も無視できません。SAS患者では注意力や記憶力の低下が起こりやすいことが知られていますが、こうした記憶力の低下により夢の内容を覚えにくくなる可能性もあります。一方で、ストレスや不安感情が高まることで夢にネガティブな情動が反映されやすくなる側面も指摘されています。
このようにSASは睡眠構造の破綻と生理的ストレスという二方面から夢に影響を与え、夢を見る頻度や内容を変えてしまうのです。
夢の変化以外に要注意!睡眠時無呼吸症候群(SAS)の典型的なサイン
夢の異変はSASのサインの一つかもしれませんが、もちろんそれ以外にも典型的な症状やサインが多数あります。以下に、SASでよくみられる症状を挙げますのでチェックしてみましょう。
- 大きないびき:周囲が驚くほど大きないびきを習慣的にかく場合、SASの代表的なサインです。特に途中でいびきが途切れ、静寂の後に「ガッ」「ブフッ」と息を吹き返すような音を立てる場合、睡眠中に無呼吸(呼吸停止)が起きている可能性があります。
- 睡眠中の無呼吸や呼吸困難:家族やパートナーに「寝ている間に何度も呼吸が止まっている」と指摘されたり、夜中に息苦しさで目が覚めることがある場合は要注意です。睡眠中に突然「ハッ」と目覚めて喘ぐように呼吸していたら、それは典型的なSASのエピソードかもしれません。
- 日中の強い眠気・居眠り:夜間の睡眠の質が悪いために、昼間に耐え難い眠気に襲われたり、会議中や運転中につい居眠りしてしまうことがあります。慢性的な疲労感や倦怠感も伴いやすく、仕事の能率低下につながります。
- 起床時の頭痛や口の渇き:朝起きたときに頭痛がする、あるいは口や喉がカラカラに乾いているのもSASによくある症状です。これは睡眠中の低酸素やいびきによる口呼吸が原因と考えられます。
- 夜間頻尿:夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)もSAS患者にしばしば見られます。無呼吸によるストレスで心臓に負担がかかり利尿作用が促進されるためで、本人は「歳のせいかな」と思いがちですが、実はSASが隠れていることがあります。
- その他の症状:この他、睡眠の質低下に伴う集中力の低下や朝のぼんやり感、抑うつ傾向やイライラなど精神面の変化もあります。男性では勃起不全(ED)を訴えることもあり、SAS治療で改善するケースも報告されています。また高血圧や不整脈など身体的な合併症が指摘されることも多く、放置すると心血管疾患のリスクが高まります。
以上のような症状に心当たりがある場合、夢の変化とあわせて睡眠時無呼吸症候群を疑ってみる価値があります。特に深刻ないびきや日中の強い眠気は要注意のサインです。
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睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療で夢は変わる?
では、実際にSASと診断され治療を行うと、夢の状態も改善するのでしょうか?答えは「YES」です。適切な治療によって睡眠の質が向上すれば、悪夢や異常な夢は減少し、正常な夢のパターンが戻ってくることが期待できます。
SAS治療の第一選択であるCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸)療法は、鼻マスクから気道に空気を送り込んで睡眠中の無呼吸を防ぐ治療法です。このCPAP治療を始めると、多くの患者で睡眠の質が劇的に改善しますが、夢に関しても顕著な変化が報告されています。
例えば、重度SAS患者を対象とした研究では、CPAP導入後にそれまで頻繁に見られていた暴力的・不安感の強い悪夢が消失したという結果が得られました。ある重症患者では、治療前にはREM睡眠中の夢の半数以上を覚えているほど断片的な睡眠状態でしたが、CPAP開始直後から悪夢が見られなくなり、夢を見る頻度自体も大きく減少しました。この悪夢の消失は、CPAPによって睡眠中の窒息状態が解消され、脳が安心して眠れるようになったことを反映しています。
興味深いことに、CPAP導入直後は夢を見る頻度(夢想起率)が一時的に低下する場合があります。実際、ある研究ではSAS患者の夢想起率が、CPAP開始前は約50%だったのが初日のCPAP使用後には20%程度まで低下したと報告されています。これは前述のように睡眠が中断されにくくなるためで、「夢を最後まで見ても途中で起きなくなる=夢を覚えていない」健康的な睡眠が戻ったことを示す良い兆候といえます。患者さんの中には「CPAPをつけたら夢を見なくなってしまった」と心配される方もいますが、これはむしろ睡眠が深くなり連続性が保たれている証拠なのです。
CPAP治療を継続して睡眠パターンが安定してくると、夢想起率は徐々に正常範囲に戻る傾向があります。前出の研究でも、CPAP開始から数か月〜2年後には夢を見る頻度がほぼ健常者並みに回復し、内容も通常の夢に近づいたと報告されています。
重要なのは、治療前に見られたような息苦しい悪夢は再発せず、夢の質が明らかに改善した点です。また、別の研究ではSAS患者で頻発していた悪夢がCPAP治療によって有意に減少したことが示されており、これは国際的なガイドラインでもエビデンスとして紹介されています。
実際に臨床の場でも、CPAP導入後に「悪夢をほとんど見なくなり朝までぐっすり眠れるようになった」という声は珍しくありません。例えば、20年間も「毎晩のように嫌な夢を見る」ことで睡眠が不満足だった47歳の女性患者では、精密検査で中等度のSAS(AHI21.7)と診断されCPAP治療を行ったところ、初回のCPAP使用直後から「一晩中夢を見なかった」と感じるほど睡眠が深くなり、昼間の状態も劇的に改善しました。このケースではその後もCPAPを継続することで、夜間の無呼吸はほぼ消失し、夢に悩まされることもなくなっています。こうした事例は決して特別ではなく、適切な治療により「悪い夢にうなされる夜」から「安眠できる夜」へと変化できることを裏付けています。
睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合はオンライン診療へ
「忙しくて病院に行く時間がない」「まずは手軽に相談したい」という方には、オンライン診療の利用もおすすめです。
森下駅前クリニックでは、SASの診察・検査に対応したオンライン診療を行っています。
自宅からスマートフォンやパソコンで専門医に相談でき、必要に応じて簡易睡眠検査機器を宅配で受け取って自宅で測定が可能です。
24時間予約を受け付けているため、隙間時間で受診しやすいメリットがあります。
SASは適切に治療すれば、眠気が改善し、事故や合併症のリスクを大幅に減らすことができる病気です。
長期間にわたって眠気が取れないと悩んでいる場合や、いびき・無呼吸の指摘がある方は、早めに専門医に相談し、必要な検査・治療を受けて快適な睡眠と日常生活を取り戻しましょう。
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参考文献
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