「CPAPはいつまで続けなければならないのか?」
これは、CPAP治療を始めた多くの患者さんから寄せられる切実な質問です。毎晩機械を装着して眠る生活に、いつか終わりが来るのかと不安に思われるのは当然のことでしょう。
森下駅前クリニックで呼吸器内科を専門に診療している医師として、本記事では、CPAP治療の継続期間について医学的根拠に基づいて詳しく解説します。また、治療を卒業できる可能性がある条件や、長期的に治療と上手に付き合っていくコツについてもお伝えします。
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CPAP治療は原則「対症療法」。高血圧の薬と同じです
まず理解していただきたいのは、CPAP治療は睡眠時無呼吸症候群の根本的な原因を治す「根治療法」ではなく、症状を抑える「対症療法」であるということです[1]。これは高血圧の薬と同じような位置づけです。高血圧の薬が将来的な血管系トラブルの確率を下げるようにCPAP治療もまた無呼吸症候群に伴う血管系トラブルへの予防効果が認められます。
高血圧の薬を飲んでいる間は血圧が下がりますが、薬をやめれば血圧は元に戻ってしまいます。同様に、CPAPを使用している間は気道が確保されて無呼吸が改善しますが、使用をやめれば症状は再発してしまうのです。
実際、多くの研究でCPAP治療の長期継続が必要であることが示されています。ある研究では、CPAP治療開始から5年後も68%の患者さんが治療を継続していたと報告されています[2]。つまり、多くの方にとってCPAP治療は長期的な取り組みになるということです。
CPAP治療が不要になる(卒業できる)3つの条件
それでは、CPAP治療を卒業できる可能性はないのでしょうか?実は、以下の3つの条件のいずれかを満たした場合、CPAP治療が不要になることがあります。
条件1:肥満が原因の場合、大幅な「減量」に成功した
睡眠時無呼吸症候群の最も一般的な原因は肥満です。体重が増加すると、のどの周りに脂肪が蓄積し、気道が狭くなってしまいます。そのため、大幅な減量に成功すれば、CPAP治療が不要になる可能性があります。
スペインで行われた研究では、体重減少とライフスタイル改善プログラムを8週間実施した結果、6か月後に61.8%の患者さんがCPAP治療を必要としなくなり、29.4%の患者さんで睡眠時無呼吸症候群が完全に改善したと報告されています[3]。
別の研究でも、5%の体重減少で睡眠時無呼吸の症状が改善し、10%の減量でさらに大きな改善が見られることが示されています[4]。ただし、これらの効果を得るためには、相当な努力と継続的な体重管理が必要です。
条件2:喉や鼻の「外科手術」で物理的な原因が解消された
扁桃腺の肥大、口蓋垂の肥大、鼻中隔弯曲症など、気道を物理的に狭くしている原因がある場合、外科手術によってこれらを改善することでCPAP治療が不要になることがあります。
最も一般的な手術は口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)です。この手術では、口蓋垂、軟口蓋の一部、扁桃腺などを切除して気道を広げます。ただし、手術の成功率は患者さんの解剖学的特徴によって大きく異なり、完全にCPAPが不要になるケースは限定的です[5]。
Friedman分類によるステージIの患者さん(扁桃腺が大きく、軟口蓋の位置が高い)では80.6%の成功率が報告されていますが、肥満度が高い患者さんでは成功率は8.1%まで低下します[6]。
条件3:原因となる他の病気(鼻炎など)が改善した
アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎などによる鼻閉が睡眠時無呼吸を悪化させている場合、これらの基礎疾患を治療することで睡眠時無呼吸が改善し、CPAP治療が不要になることがあります。
ある研究では、アレルギー性鼻炎を持つ睡眠時無呼吸症候群の患者さんに鼻腔内ステロイド薬を10-12週間使用したところ、無呼吸低呼吸指数(AHI)が11イベント/時間減少し、最低酸素飽和度が約2%改善したと報告されています[7]。
ただし、鼻炎の治療だけで睡眠時無呼吸症候群が完全に改善することは稀で、多くの場合はCPAP治療と併用することで、より快適に治療を継続できるようになります。
絶対にダメ!自己判断でCPAPをやめることの深刻なリスク
「調子が良いから」「面倒だから」といった理由で、医師の指示なくCPAP治療を中断してしまう患者さんがいらっしゃいます。しかし、これは非常に危険な行為です。
症状の再燃と生活の質の低下
CPAP治療を中断すると、多くの場合、数日以内に元の症状が再発します。日中の眠気、集中力の低下、疲労感などが再び現れ、生活の質が著しく低下します[8]。
ある研究では、CPAP治療を1晩中断しただけで、翌日の眠気や認知機能の低下が見られたと報告されています[9]。
重大な合併症のリスクが再び高まる
睡眠時無呼吸症候群は、高血圧、心臓病、脳卒中、糖尿病などの重大な合併症のリスクを高めます。CPAP治療によってこれらのリスクは低下しますが、治療を中断すれば再びリスクが上昇します。
30年間の長期追跡調査では、CPAP治療を継続した患者さんは、治療を受けなかった患者さんと比較して生存率が約6倍高かったことが示されています[10]。
保険適用の停止
日本では、CPAP治療の保険適用を継続するためには、毎月の受診と一定以上の使用実績が必要です。自己判断で治療を中断し、受診を怠ると保険適用が停止され、再開時に高額な自己負担が発生する可能性があります。
「いつまで」の不安を解消!治療と上手に付き合う3つのコツ
CPAP治療が長期にわたることを受け入れた上で、いかに快適に、前向きに治療を継続していくかが重要です。以下に、治療と上手に付き合うための3つのコツをご紹介します。
治療の効果を「見える化」して実感する
CPAP治療の効果を実感することは、治療継続のモチベーション維持に重要です。最近のCPAP機器は使用データを記録しており、以下のような情報を確認できます:
- 1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(AHI)
- 使用時間と使用日数
- マスクのリーク(空気漏れ)量
これらのデータを医師と一緒に確認し、治療前後でどれだけ改善したかを「見える化」することで、治療の意義を実感できます。
毎日の治療を「快適」にする工夫
CPAP治療を快適にするための工夫は数多くあります:
- 適切なマスク選び:鼻マスク、フルフェイスマスク、鼻ピローなど、様々なタイプがあります。自分に合ったマスクを見つけることが重要です。
- 加湿器の活用:CPAP使用による鼻や喉の乾燥を防ぐため、加温加湿器の使用が推奨されます[11]。
- 圧力設定の調整:オートCPAPやBiPAPなど、より快適な圧力設定が可能な機器への変更も検討できます。
- アレルギー対策:アレルギー性鼻炎がある場合は、抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイド薬の併用で快適性が向上します[12]。
治療の「負担」そのものを軽くする
CPAP治療の負担を軽減する方法もあります:
- 体重管理:減量によってCPAPの設定圧を下げられる可能性があります。圧力が下がれば、より快適に使用できます。
- 生活習慣の改善:禁煙、節酒、規則正しい睡眠時間の確保などにより、睡眠時無呼吸の重症度が改善する可能性があります。
- 定期的なメンテナンス:マスクやチューブの定期的な清掃・交換により、衛生的で快適な使用環境を維持できます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いがある場合はオンライン診療へ
CPAP治療は多くの患者さんにとって長期的な取り組みとなりますが、適切な管理と工夫により、快適に継続することが可能です。また、体重減少や基礎疾患の改善により、将来的に治療を卒業できる可能性もゼロではありません。
最も重要なのは、定期的な医師の診察を受け、適切な指導のもとで治療を継続することです。自己判断での中断は避け、不安や疑問がある場合は必ず主治医に相談してください。
森下駅前クリニックでは、睡眠時無呼吸症候群の診断から治療まで、オンライン診療でサポートしています。「いびきがひどい」「日中の眠気が強い」など、睡眠時無呼吸症候群の疑いがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
経験豊富な呼吸器内科専門医が、一人ひとりの状況に応じた最適な治療法をご提案いたします。CPAP治療中の方の定期フォローアップもオンラインで対応可能です。
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合併症
症状
原因
傾向
疑い
引用論文
[1] Continuous Positive Airway Pressure – StatPearls – NCBI Bookshelf. 2025.
[2] McArdle N, et al. Long-term use of CPAP therapy for sleep apnea/hypopnea syndrome. Am J Respir Crit Care Med. 1999;159(4):1108-1114.
[3] Carneiro-Barrera A, et al. Effect of an Interdisciplinary Weight Loss and Lifestyle Intervention on Obstructive Sleep Apnea Severity: The INTERAPNEA Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2022;5(4):e228212.
[4] Georgoulis M, et al. Dose-response relationship between weight loss and improvements in obstructive sleep apnea severity after a diet/lifestyle interventions: Secondary analyses of the “MIMOSA” randomized clinical trial. J Clin Sleep Med. 2022;18(6):1593-1601.
[5] Uvulopalatopharyngoplasty: Overview, Periprocedural Care, Technique. Medscape. 2023.
[6] Friedman M, et al. Clinical predictors of obstructive sleep apnea. Laryngoscope. 1999;109(12):1901-1907.
[7] Kiely JL, et al. Intranasal corticosteroid therapy for obstructive sleep apnoea in patients with co-existing rhinitis. Thorax. 2004;59(1):50-55.
[8] Weaver TE, Grunstein RR. Adherence to Continuous Positive Airway Pressure Therapy: The Challenge to Effective Treatment. Proc Am Thorac Soc. 2008;5(2):173-178.
[9] Kribbs NB, et al. Effects of one night without nasal CPAP treatment on sleep and sleepiness in patients with obstructive sleep apnea. Am Rev Respir Dis. 1993;147(5):1162-1168.
[10] Dodds S, et al. Mortality and morbidity in obstructive sleep apnoea-hypopnoea syndrome: Results from a 30-year prospective cohort study. ERJ Open Res. 2020;6(3):00057-2020.
[11] Koutsourelakis I, et al. Nasal inflammation in sleep apnoea patients using CPAP and effect of heated humidification. Eur Respir J. 2011;37(3):587-594.
[12] Scherer R, et al. A sleep clinician’s guide to runny noses: evaluation and management of chronic rhinosinusitis to improve sleep apnea care in adults. J Clin Sleep Med. 2023;19(6):1163-1176.